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混迷を極める思考に引きずられるかのように、ものすごい勢いで映像が脳裏に流れ出す。
スーツや制服姿の人がギュウギュウ詰めになった満員電車。スタイリッシュな高層ビル群が空を狭くしている。無機質なデスクがズラリと並ぶオフィスでは、キーボードを叩く音が響く。
同じ音がする、八畳ワンルームの見慣れた部屋。漫画やアニメ、ゲームのグッズで溢れた机。ツイッターを表示したスマホ。テレビから流れるアニメをBGMに、忙しくPCを叩く。
(これ、は……?)
同時に、まったく違う記憶も溢れ出す。
光の楽園と呼ばれる、シュトラール王国。花と緑に彩られた、アーレンスマイヤー公爵邸。美しく整えられた、お気に入りの薔薇園。そこで楽しむ、アフタヌーンティー。お母さまからいただいた真珠色のバイオリン、ニコロ・アマティ。その柔らかくて優しい音が大好きだった。
「わ、たくし……は……」
たくさんの同志さまで、ひしめきあう同人イベント会場。アフターで呑むお酒の味。
はじめて王宮のお茶会に招かれた時の、あの高揚感。そして幸福感。目にするものすべてが豪奢で美しく、圧倒された。
「私……わたくし……は……」
『六聖のFORELSKET~語れないほど幸福な恋に堕ちている~』の続編制作決定の報。公開されたトレーラーの素晴らしさ。嬉しくて、それ以上に感動して、思わず涙を零した。
リヒト皇子殿下にはじめてお会いした時のことは、今も忘れることができない。八歳にして、他の追従を許さぬカリスマ性。眩いばかりの美貌。その一挙一動に魅了された。
ボーナスを手に、数多の『推し』を手にするために挑む――
十歳の誕生日に、お父さまからいただいた白毛の仔馬。大切な相棒。
スタバのほうじ茶ラテは、仕事や原稿で疲れた時のマストアイテム。
リヒト皇子殿下と同じ、六聖アエテルニタス学園の制服と金の紋章。
そして――猛スピードで迫り来るトラックのヘッドライト。
「ッ……!」
レティーツィアは思わず目を瞑り、崩れ落ちるようにその場に膝をついた。
「れ、レティーツィアさま!?」
女性の驚き、焦る声がする。
しかしそれには答えず――答えられず、レティーツィアは頭を抱えたまま息をついた。
(ああ、そうか……)
ノーブレーキで突っ込んできたトラック。自分は、青信号を渡っていたはずだ。それなのに、なぜそんなことが起きたのか。もう――それを知ることはできないだろう。
ただ一つたしかなことは、その後の『私』の記憶が一切ないということ。
(きっと、『私』は死んだんだ……)
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