第4話 無口の妖精の願いごと
暫くは窓の悪戯は続いたが、注意を促すとピッタリと止んだ。
誰にも被害がないのだからまだ可愛いものだけれど、迷惑はかかっているので注意しないわけにいかない。実際、このように効果があるのだから。
犯人は分からないが、大体の目星は付いている。
注意していた時、一瞬神田の表情が変わったのが見えた。この前の腹いせか、ただの悪戯か……。
どちらにせよ、やっていいことといけないことがある。それを教えるのも教師の仕事だ。
「では、明日からゴールデンウィークだからといってハメを外しすぎないように。課題もちゃんとやるんだぞ?では解散。」
ゴールデンウィーク前の最後のホームルーム
を終わらせ、神田の元へ向かう。
「神田、後で職員室へ来てくれ。理由はわかるな?」
桐谷の先に職員室へ向かうと、クラス名簿や教科書を片付け神田が来るのを待つ。
「失礼します。」
「入ってきなさい。」
職員室である事が不思議なのか中にいる先生達を驚くように見つめている。
「やっぱり……」
小声で震えながら言った声は届かなかった。
「何故呼ばれたか分かるか?」
「……何故ですか?」
「窓枠に紙入れたのお前だろ?俺が注意した時、動揺してるように見えたぞ?」
「……だとしたら、どうしてその時に言わなかったんですか?」
「まずはどうなんだ?やったのかやってないのか。」
「……私がやりました。」
「そうか。さっきの質問の答えを教えよう。1つは確証がなかったからだ。だからこうしてカマをかけた。もう1つは、そうするべきじゃないと思ったからだ。」
「先生は、あの紙を見てどう思いましたか……?」
「毎日毎日丁寧にやってると思った、犯人が真面目なのは伝わってきた。」
「そう……ですか。」
「今日呼び出した理由はそれだけだ。今日はもういいぞ。正直に話してくれて良かったよ。」
「はい……失礼しました。……少し、教室を掃除して帰ります……。」
「ん?あ、あぁ。いい心掛けだ。」
自ら掃除とは、本当に反省してくれているんだなと感心しながら神田を見送った。
「それにしても、あの紙を見てってどういう意味だ?どう見ても全部白紙だったじゃないか。」
「桐谷先生」
「はい、なんでしょうか
「今日帰る時に自分のゴミ箱の中身を捨てて帰って欲しいんですが、ほかの先生方にもお伝えして頂けませんか?私この後、生徒と面談があるので。」
「はい、分かりました。皆さんに伝えておきますね。」
「ありがとうございます、では失礼しますね。」
「ゴミか、そういえばそろそろ溜まってきたな。」
ふとゴミ箱を覗くと、窓枠に詰められていた紙か目に止まった。
注意されてすぐ辞めるんだったら、そもそも何故窓枠に白紙の紙を入れたんだ?
白紙……?確かに最初の何回かは中を確認したけど、それ以降は確認していない。それに、わざわざ紙を見てどう思ったかなんて普通知りたいか?
その時、ひとつの仮定が頭をよぎった。
あの時の表情は、注意されて焦ったのじゃなく気づいた事に反応した……?
今あるゴミ箱には約2週間分のゴミが入っている。それ以前は既に焼却所で燃やされている。
もし、仮にこれがメッセージだとしたら半分は読めないと言うことになる。
桐谷はまさかと思いながら、悪戯に使われた紙をいくつかゴミ箱から出して開いてみる。
よく見ないとわからない程度に文字が書かれているのが分かった。掠れて読みにくいものもある。
「い」 「も」 「て」 「か」とそれぞれ1枚に1文字ずつ書かれていた。
「それは、メッセージ……か?」
それに気づいた桐谷はゴミ箱をひっくり返さん勢いでゴミ箱から悪戯に使われた紙を漁った。
見つかったのは全部で8枚。
「い」 「い」 「か」 「じ」 「す」 「で」 「て」 「も」
五十音順に並べるとこうなった。
きっと、仕掛けた順に読むとメッセージがそのまま読めたのだろうが今となってはこのざまだ。
「どうしてもっと早くに気づけなかったんだろうか、これじゃ読めないぞ。」
恐らくあと何文字かはすべに焼却所で燃やされている。
綺麗に並べても分からないと思い、あえて無造作に文字を書いてみた。
何パターンか書いていると、不思議とひとつの言葉が頭をよぎった。
なぜ気づいてあげられなかったのか、そう思うといても立ってもいられず教室に走り出した。
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