第3話 悪戯好きの妖精の願い
桐谷は飲みさしのコーヒーを一気に飲み、空になった紙コップをゴミ箱に投げ入れた。
相談室の後片付けを済ませ、施錠し鍵を返すために職員室へ向かった。
「桐谷先生、相談室意外と早かったですね。生徒来なかったんですか?」
「いや、ちゃんと来ましたよ。ただ、たいしか用事でもなかったので早く終わったんです。」
「相談室を使って、ですか?」
「他人に聞かれていいものではないのは本当なのですが、面談みたいなものですね。」
「そう……ですか。まぁ、頑張ってくださいね。」
「では失礼しますね、斎藤先生。」
斎藤は何となく察したのか、踏み込むべきではないと思ったのかあっさりと話を終えてくれた。
別に後ろめたいことなどないのだが、神田のためにもあまり話すべきではないと桐谷は判断した。
その後、2年3組の教室へ戻り、生徒の忘れ物がないかチェックする。
霧ヶ峰高校では、忘れ物は一旦職員室の担任のデスクで預かることになっている。
めったに無いが、過去に他の生徒が人の忘れ物を故意的に持ち帰ったことが発覚して以来このような処置が執り行われるようになった。
教室に向かうと、窓が空いているのか西陽の暖かい光と少し肌寒い風が身体を包む。
差し込む光と揺れるカーテンがなんとも美しく思えた。
「誰だ、窓を開けっぱなしにしたのは……。よし、誰も忘れ物はしていないな。」
窓を閉め、机やロッカーを見て周り忘れ物がないことを丁寧にチェックしていく。
言い忘れていたが、忘れ物をただで預かる訳では無いので滅多なことがない限り生徒は忘れ物をしない。
もし忘れ物をして担任が預かった場合、1つにつき1回、担任の手伝いをしなければならないと言うペナルティーが課せられる。大体が荷物持ちやプリント配り程度で済む。
「さて、窓も閉めたし忘れ物も無し、今日も問題なしだな。明日のプリントでも作るか。」
いつもの授業風景、いつもの放課後、そして、いつもの仕事。ただ1つ、神田 瑞希を除いては。
あれからは特に変化なく、2週間は時間が経った。
神田は相変わらず1人で過ごし、何か話してくれるような気配はない。ここは、特に悩み事も何も無いと喜ぶべきなのであろうが何故か釈然としない。
何かある、そう俺の感が告げている。またそれが気持ち悪く思うのだ。
「今日も窓が空いてるな……、誰だ毎日丁寧に開けて帰るのは。」
ココ最近、毎日毎日教室前方の窓が10センチほど開いているのだ。
「ん?何か挟まって閉まらないのか?」
ちぎり取られたノートが折り畳まれて窓の溝に入れられていた。
開いてみると何か書かれたりしているわけでもなく、悪戯としか考えれなかった。
「これがまた続くようなら注意を促すしかないな……。」
この時はまだ、気がつくはずもなかった。
これが、彼女からの無言のSOSだったとは。
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