第2話 西陽は雫を赤く染める

 桐谷が霧ヶ峰高校に赴任して1ヶ月程が過ぎ、クラスには少しずつではあるが馴染めてきていた。

 自分の受け持つ英語と朝のホームルーム、それにロングホームルーム以外はクラスにいることが少ないため時間が掛かってしまったとも言える。

 実際3組の生徒は誰かが特に仲が悪いとか、行き過ぎた弄りやいじめがある訳でもないクラスだった。

 多少、個人間の好みの差や思考の違いなどで揉めたりもするが、比較的すぐに収まるし問題になるようなことでもなかった。

 今の印象としてはクラス全体がそれなりに纏まっており、特に仲のいいグループごとに別れている。

 イケイケ系だったり、オタク系だったり色んなグループに別れている。

 まあ、そんなクラスでも所謂ボッチがいた。

 最初はそういう子もいるのかと思っていたが、教師というか、一人の人間としての感が違うと言っている。なんかこう……言葉に出来ない何かがあると。


「神田、放課後少し残ってくれ。」


 その感を確かめるために、桐谷は神田を呼び出した。



 放課後、他の生徒が教室から出ていった頃、桐谷は神田の元へと向かった。

 何故かわからないがこうするのが正解だと思ったからだ。


「神田、少し話し良いか?」

「……なんですか?」

「特にこれと言ってあるわけじゃないんだが……」

「……なら、帰ってもいいですか?」

「いや、相談室を借りてる。そこで話そう。」


 神田は桐谷を軽蔑するような目で見ていたのは気づいてないふりをした。

 相談室は教室1つ分の広さがあり、他職員室などがある別館にある。別館と行ってもほぼ直結なのでとりあえず名称をつけてるだけにすぎないのだが。

 相談室の内装は、手前に長机にパイプ椅子。奥にテーブルを挟んでソファが2つ、その後ろにポットやちょっとした棚が置かれている。

 桐谷は奥のソファに神田を座らせ、飲み物を淹れ始めた。


「神田はなにか飲むか?」

「別にいらないです、そんなことより話って……。」

「そうか、じゃあさっそく本題に入るか。」


 桐谷は自分のコーヒーを淹れ、ソファに座って話を始めた。


「まぁ勘違いだったら申し訳ないが、何か困ってることはないか……?俺はまだこっちに来て1ヶ月そこそこで、お前たちクラスの生徒のことだってまだまだ知らないことが多い。だが、これでも教師歴10年だ、それなりに人を見る目があるとは思っている。」


 しばしの静寂の後、優しく語りかけるように言葉をかけた。


「どうだ?もし、そうだったとして言いにくいのなら今は話さなくていい。」

「……何も無いです。」

「何も無いけど、誰とも話さずにずっと1人でいるのか?」

「それは、ひとりが好きだから……。」

「そうか、変なことを聞いたな。今日は付き合ってくれてありがとう、帰ってくれてもいいぞ。」


 窓から差し込む西陽のせいか神田は少し潤ん出るように見えた。神田はその目で桐谷のことを睨みつけ、相談室を後にした。

 ただ、その後ろ姿はどこか寂しそうだった。


「俺はいつでもいいからな」


 きっと何かあると、そう思った。勘違いであって欲しい、それでも言葉をかけられずにはいられなかった。

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