第6話 天使の卒業式 4
卒業式はつつがなく進行していった。卒業証書の授与、校長の話、その他のありがたい話、そして在校生の送辞。私は、その送辞に応えるべく、壇上に上がる。
原稿に書いた、ありきたりな感謝の言葉、これからの自分たちへのエール、残されていくものへの激励。それらを話し終えても、そよぎにはもう一つ伝えたいことがあった。
「誰しも、卒業したくないと思って学校に来た人はいないと思います。
でも、私たちの中でもいろいろな事情で卒業できなかった人たちがいます。
私の友人も、そのうちの一人です。
彼女は、入学時点ですでに卒業は厳しいと言われていました。
物語にあるような奇跡は起こらず、鬼籍に入ることになりました。
ただ、彼女も私と一緒に卒業する未来を描いていたと思います。
彼女が卒業した証書はありませんが、彼女がいなくなってからも含めた3年間も共にいたと思っています。
だから、私は彼女の分の卒業も、みんなで祝えたら、と思っています。
卒業、おめでとう、六花。」
拍手をもらう。こんなものはただの自己満足にすぎないが、それでも、彼女がいたことを祝ってもらえるなら、ありがたい話はない。
「みなさま、ありがとうございます。
最後に、ご出席された、保護者の皆様、指導してくれた先生方、ともに学んだ同級生と、後輩たちに、感謝の思いを込めて、答辞とさせていただきます。
3年間ありがとうございました」
気持ちというのは言葉によって伝えても有限時間では伝えきれないものである。それを実感すれば、自分たちは月並みな言葉を紡ぐしか方法がない。奇抜な言葉には個性があるかもしれないが、それは大切な人に届くとは限らない。普遍的な、『ありがとうございました』という言葉でしか感謝を伝えられないその想いを、そよぎは込めた。
「ありがとう」
と、姿の見えないリキエルが言った気がした。やっぱり六花じゃないか、とそよぎは思った。
教室で級友に別れと再開の約束をし、教室を出た。そよぎにはどうしても、一つしたいことがあった。そのために、一人になりたかったのだ。
あたりにだれもいなくなったことを確認して、そよぎは言う。
「わたし、リキエルさんと一打席勝負したいんだけど」
そう聞いてみた。
「それがそよぎのやりたいことなの」
「勝負するまで、今日を繰り返すことになるよ」
はあ、とリキエルはため息をついた。
「いいよ。でも、私、野球上手くないよ」
嘘ばっかり、とそよぎは呆れた。初めてちゃんと話をした日にも同じことを言われた気がするとそよぎは思い出す。
「まあ、上手くなくてもいいから、わたしの言う方法でピッチングしてくれればいいよ。打ってあげるから」
「自信満々だなあ」
「練習してたからね」
「受験勉強はどうしたの」
「その合間にね」
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