第5話 天使がいた1日 8

「それが、人が生きるってことだよね」

 そう言って不思議な彼女は姿を現した。

「どういうことです」

「人が生きて、言葉を話すことで、それが時に呪いになったりするの。それは、人が人と生きていくことだなって思ったの」

 そうですね、と私は同意した。

「あなたは、役割を引き継いだら、不思議な力が使えるようになるわけだけど、どういうことをしようとか決めてたりするの?」

「まだそうするって答えてないんですけど」

「あら、そう? そういうつもりなんだと思ってた」

 実際のところ、本当に私が今日中に終わってしまうのだったら、引き継いだ方がいいかなと考えていた。

「もう少しだけ考えさせてください。

 ところで、じゃあ、あなたはどうしてささやかな願いを聞く、なんて力にしたんですか?」

「そうね。魔法のランプの話を思い出したから、かな」

「そんな理由ですか」

「そんなものよ。どうしたって世界に存在してしまうのだし、ちょっとした不思議な感じがあれば、何でもいいだろうと思ったからね。

 ささやかに限定したのは、『世界征服したい』とか言われても困るからで、実際のところは、大体のことならかなえてあげようと思っていたの。

 たぶん、人が本当に欲しいものって、そういうささやかなものだと、私がこれを始めてから思ったし。あと、そうね。ささやかなことでも、バタフライ効果的に、そのささやかな不思議な力も、その人の人生を変えるから、かな。あとで言った方の理由は、その不思議な力を別のものに変えなかった理由だけれど」

 でも、今回の願いで私の人生がこれ以上長くなることはないのだろう。彼女がまだそこにいて、私に役割を引き継ぐよう求めていることから、それが分かる。

「今日、この3つの願い事も上手くやったら、私は死なずに済んだりできたの?」

「それは分からないわ。私の主観からはそうは思えないけど、万能ってわけじゃないからすべての可能性を探ることは、私にはできないからね。

 そろそろ、結論を聞きたいな。あなた、この役割を引き継いでみる気、ある? 橘六花さん」

 私はその言葉に頷いた。

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