第2話 天使、しろくま、ホームラン 7
遠野君は次の人を指名するのを忘れ寝てしまったので、私が次の人を適当に見繕うしかない。それは構わない。そもそも、指名のルールをやめにしてもよいかもしれない。同じ高校内でという制限を設け続けるならば、全校生徒の5分の3を過ぎてしまっている。そろそろ破綻しそうである。
今回の遠野君について振り返るならば、彼がしたかった、誰かの良い話をベースに自分の考えを入れて、フィクション足らしめたい、ということは実行できていたのではないかと思う。そして、彼が気づけなかった、本当にしたいと思っていたことは、五十嵐さんの親友の親友である宮本太一と会話し、友達になることだったのだと思う。それを達成し、やっておくべき小説の作業を終え、きっと満足のいく一日を送れたと私は思っている。
そして、太一が遠野に話した『天使と出会った日』は非常に面白かった。太一は繰り返す一日を選ばなかった。それに関する思いを彼の視点から聞けたこと、それが何よりも私にとってうれしかった。そういう意味で私は遠野君の行動が本当にありがたかったし嬉しかった。多少誘導したところもあったが、結果オーライということにしてほしいと思う。
次は、どうしようか。千咲さんに構ってみるのも面白いかもしれない。彼女はどうするのだろうか。
書き上げた原稿を送ると、
「大筋は、まあ、ありきたりな話のような気もするが、私は面白く読めたし、いいんじゃないかと思う。あとは、文章のある程度の手直しと、あと、もう少し描写を丁寧にして、ページ数を調整して、って感じかな。もう一回丁寧に書いたのを1週間後までに」
という返事をもらった。確かに、突貫で書いたところも多く、粗さが目立つものだったと思う。しかし、認められたという点は素直にほっとした。
しかし、思えば妙な一日だったと思う。確かに興味を持ってはいたが、高校野球をどうして見に行こうと思ったのか。理由が思い出せなかった。本格的にネタに困っていたのは事実だったが、自分にしては行動に違和感がある。
書いた原稿を次の日のうちに宮本に渡してみた。その時にペンネームで書いていたら、
「遠山徹ってお前のことだったんだ。マジか。そっか。マジか」
と言われ、驚かれた。どうやら自分の作品を読んだことがあるらしかった。
「結構面白かった。自分のことのようで、脚色が入ってて、自分でもなくて、なんかこそばゆかったけど」
という感想をいただいた。
もう一つ、変なことといえば、原稿を書き上げた次の日は非常に眠かったが、どうしてどうなってしまったら放課後に千咲の膝の上で昼寝をすることになってしまったのだろうか、ということだ。そのときの、桃花さんのニヤニヤ顔が忘れられない。何か、よくわからない罠にかけられたような気がしないでもないが、千咲はそういうことが苦手なはずなので、意味が分からなかった。
そして、そろそろ、千咲の気持ちには向き合ってあげなければならないのか。
そんなことより、さっさと原稿を改めて、新しい話のネタを考えたい気分だけれども。
その前に、溜めてた小説とゲームを消化しなければ、だ。
やりたいことはたくさんある。
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