第1話 天使が見た2日間 9
彼らは、なんだかんだ言って、似た者同士な二人だったと思う。
面白かったのは、二人とも、相手のため、を重視していたことだろうか。
そんなあの二人には、穏やかな日々が待っていると思う。
きっとお似合いだろう。川崎さんが思っていたとおりである。
私は、その川崎さんのそばに行くことにした。
青野君の指定が彼女だったから。曰く、
「川崎さんが、この『今日』のなかで一番、有益な情報をくれたから」
だそうだ。青野君の友達の遠野君も、まだ、この繰り返す一日をもらっていなかったのだが。
驚いたことと言えば、青野君は、彼女を好いていた、ということだろうか。
それを知ってから、少し態度が悪くなってしまったのは、少し申し訳なくも思ったが、少し割り切るには時間が必要だった。仕方ない。
上手くいったのだから、結果オーライだろう。私のことは、忘れるのだから。
実に不思議な二日間で、僕が僕らしくもない決断で、彼女ができることとなった。こんなに好きだと思われている、というのは、逆にプレッシャーな感じがある。
あの告白された日も、妙に琴子さんと縁がある日だと思ったし、彼女が言うには、
「あの勢いで、今日こそ告白しないといけない、という気持ち、だったと思うんだけど。どうしてあそこまで思い立てたのかわからないけど。でも、あの日は、あの日で最高の一日にできたんだっていう、確信みたいなのがあるんだ」
とのことだった。
その告白に対して、僕自身の行動が自分自身で信じられなかった。
別に皆勤賞がいいことだとは思わないが、今までは部活動などの公欠以外で休むことはなかったのに、わざわざ仮病を使って、彼女へのプレゼントを買いに街まで出ていたこと。そして、たった一日なのに、一目ぼれとかする質でないと思っていたのに、一日でいつの間にこんなに気持ちが変わっているということが不思議であった。しかし、不思議なのに、納得できている、そうしたいと自分が思っていたという覚えがある。
だから、彼女が持っている、自分の不思議な行動に対する確信、みたいなものは僕自身にもあった。そういうことを琴子さん伝えると、
「それが、もしかしたら、『運命』みたいなものなのかもしれないよね」
と顔を赤くして言った。
そして、こんなに、途端に相手のことが愛おしく思える感情が不思議だった。自分でも、こんなに惚れっぽい人間だっただろうか、と思う。
ただ、頭の中で金髪の童顔のちびっこ天使が、少し僕のことを罵倒しつつ、叱咤するイメージがわいてきた。
「頑張れよ、恋愛ってのは、付き合って終わりじゃあ、ないのよ。一緒に、幸せになっていく過程なのよ。ちなみに、結婚というのは、どんなにつらい時もともに支えあうことだから、『こいつを絶対幸せにしてみせます』とかいうのって、間違いだと思うのよね」
と毒舌ながらも応援してくれている気がした。
「もう、付き合って一か月にもなるんだし、名前で呼び合ってもいいんじゃないかなって思うんだ。青野君、じゃなくて、……悠君」
ある日の昼休み。食堂の片隅で、二人で食事をとっていたときに琴子さんがそう言った。
「『君』、は取らないんだね」
「あはは、呼び捨てるのは、なれなくて」
「白石は、そんな感じが似合ってるよ」
「悠君も名前で呼んでくれていいんだよ」
「それは恥ずかしい」
「ちょっと、ひどいかな。一回だけ、ちょっと呼んでみてくれないかな」
ここで期待に応えないわけにはいかない。だって、僕は彼女を喜ばせたいのだから。
「えっと、じゃあ……。琴子……さん」
「『さん』は余計じゃないかなあ」
「それはまた今度ということで」
「ダメ」
「じゃあ、コト、って呼んでもいい?」
金髪少女が、『ああ、やってらんねえ。これだから人の恋路に活用されるのは嫌だったんだ』と叫んでる声が聞こえた気がしたけど、気のせいだ。
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