駅に戻る

 ゆらゆら揺れる光を瞼越しに見ていた。ゆっくりと目を開くと電球がぶら下がっていた。ここがどこかはわからないが、腹に穴が空いていたことを思い出しばっと起き上がり傷を見る。無い。確かにあの激痛は現実のものだった。しかし腹にはかすり傷ひとつない。わけが分からなかったがぼろぼろのベッドの横に置かれたカバンの中を見るとスマートフォンがあった。何件も不在着信があり、部屋の中には人がいるようすはなかったのでかけ直してみた。相手は木島穂乃果。1分近くコールして、もう無理かと思ったときに電話はつながった。

「綺羅?送られてきた位置情報に着いたけど駅なんてないただの住宅街なんだけど、近くの写真とかおくってくれない?」

少し焦った声でそう言われたが、この部屋の写真を送っても意味がないと思い、偽斑駅に着いたときに撮った【ぎまだら】と彫られた柱の写真を送る。すると穂乃果は一瞬固まったようで何も言わない。どうしたのかきこうとしたとき。

「とりあえず、もう始発も走り出す頃だから駅に戻ってみて」

 もう6時を過ぎていた。明るくなっているし安心だろうとカバンを持ってゆっくりとドアを開けるが、腐ったドアはギィギィと音を立てて開き、ギリギリ出れる程度に開けて部屋を出た。遠くに恐らく自分が来たであろう偽斑駅が見える。夜は暗く、何も見えていなかったがよく見ると道にはたくさんのトラバサミや森の入り口に鈴がついた紐がかけてあった。それにおかしなことにここに来てから一度も人に出会ってない。あるき続け、偽斑駅にようやく着いたが時刻表がない。しかし20分ほどすると真っ黒の一両の列車がきた。迷わず乗ろうとした。列車は動き出し、品川行きと書かれていた。やっと帰れる。そう思って安心していると眠気が襲ってきて、気がつくと眠ってしまっていたらしく、車掌さんに起こされた。

「終点、品川です。」

 き上がり改札へ続く階段を登り、安心した。見慣れた品川駅だったからだ。京浜東北根岸線に乗り換え、横浜に着いた。ラビーのところへ行き、車を30分ほど運転して家に着いた。車から降りようとしたとき、激痛に襲われた。白のワイシャツがどんどん赤く染まっていき、意識も薄れてきた。時計を見ると7月23日8時21分、今日があたしの命日になるのかと思い綺羅は目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る