偽斑駅
スマートフォンを見ると時刻はすでに2時45分だった。一時間も電車に乗っていたことに驚いた。人生に疲れ、色んなことを考えていたら導かれるように乗ってしまった見たことも聞いたこともない地名、偽斑行きの列車。綺羅はスマートフォンのライトを頼りにひたすら歩いて、小屋の窓からこぼれる灯りに近づいていた。近づくにつれ、鼻につーんとくる謎の異臭。綺羅はスマートフォンのライトを消し、そっと窓の中を見てみることにした。
「な、なに…これ…」
窓から見た小屋の中は一面赤黒く染まっており、刃物が、それもどれもが人を殺めるのには苦労しない大きな鎌や鍬が壁に立てかけられていた。普通の人なら驚いて恐怖で逃げ出すであろうところであるが、綺羅はシャッター音の鳴らないカメラアプリを開き、窓の端っこから全体が写るように写真におさめた。壁に耳を当て音を聞くが、中に人がいる気配はない。カバンを窓の下に置き、スマートフォンとメモ用紙、ボールペンだけを持ち静かに窓を開けて中に入る。酷い匂いだ。鉄臭く、生ゴミが腐ったような匂いもする。しかし綺羅は全体の写真、血のような、いや、血としか考えられない色に染まった刃物を一つ一つ写真に収める。小屋の中を一通り調べたとき、入り口の南京錠を開けようとしている音が聞こえ急いで窓から出て、息を潜めてしゃがんでいたが足音はこちらへ近づいてくる。窓が開いた。しかし、心臓が破裂しそうな綺羅の思いとは逆に、すぐに窓は閉められた。ここがどこなのか、まずはそれを知るために人が、いや、こんなところにいるモノは人なのかはわからないが、綺羅が侵入した小屋の裏口は林になっているようだったので、カバンを持ちゆっくりと林の中に向かった。木島穂乃果以外に、地元に友達はいなかった。ネットで知り合い何度かオフ会で会ったことのある知り合いも連絡先を持っていたが、こんな状況を話してまた友人が減るのは嫌だった。酔っていたし出ないかもしれないと思いながらも穂乃果に電話をしてみる。すると意外にもすぐに電話に出た穂乃果。
「迎えに来てくれる気になったの~?でももう酔い冷めたし今3時50分じゃん、始発まで待つから大丈夫だよ。」
まって!そう言って切られそうになった電話を繋ぎ止めた。品川から偽斑行きの列車に乗ったんだけど、地図は山の中になってるし線路もない、そして先程見た光景を、LINEで穂乃果に送った。すると穂乃果は黙った。そしてこう言い出した。
「それ、きさらぎ駅って話に似てない?電車に乗ってると知らない場所に着いちゃうって話。昔2ちゃんねるのオカ板で話題になってたやつだよ!聞いたことないはじないでしょ、ねらーのあんたが。」
ああ、思い出したたしかにそのような話は聞いた事がある。でもあの話はたしか普通にいつもの列車に乗ってたら知らない駅に着いたというものだったが。思い出して寒気がした。あの話、途中から1が祭りをやってるような音が聞こえてきてどんどん近づいてくる話だったからだ。たしか、親切な人が助けてくれたという投稿で終わっていた気がする。あたしも帰れなくなるのだろうか?綺羅は不安に思い穂乃果に迎えに来てもらうように頼んだ。品川駅から一本だけ錆びたボロボロの単線のレールが伸びてるはずだからそれに沿って来てくれと頼むと、車で行くから位置情報送って待っててと言われた。その時、背中から腹にかけてグサリと何かが貫通した音が、最後に綺羅の耳に残った。視界がぼやけていく中、腹を見ると赤く染まった木の杭があった。
「ほの、か…早く…」
最後に時刻を見ると4時32分だった。
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