第95話 ユースティアvsドートル
「死んでもらいましょう」
迫る凶刃を前に、レインは一歩も動けなかった。
ドートルの『罪鎖』の力によって動きを封じられ、魔人化したレインの力でもってしても拘束を解くことはできずにいた。
「くっ」
濃厚な死の気配。しかし、ユースティアがそれを座して見ているだけのはずがなかった。
「させるか!」
「おっと」
ナイフがレインに届くギリギリの所で、ユースティアがそのナイフを蹴り飛ばす。そのままドートルにも攻撃を加えようとしたが、その攻撃はいとも容易く躱される。
とても発明家とは思えないほどの身のこなしだった。
「危ないじゃないですかぁ、ユースティア様。あやうく腕ごともっていかれるところだった」
「私はそのつもりだったがな」
「で、どうするつもりですかユースティア様。まさか私と直接殺り合うつもりで?」
「お前がこのまま大人しくあっちへ帰る気がないなら私も手段を選ばないだけだ」
「ですから何度も言っているでしょう。私はフィリア様にあなたを連れ帰るように命じられていると。あなたが一緒に来るというのであれば話は別ですが」
「断る」
「はぁ、そう言うと思いましたよ。面倒なことこの上ありませんが、仕方ありませんねぇ。我儘を言うお姫様には少々痛い目を見てもらうとしましょう」
「っ!」
ドートルの姿が消える。かと思えば、ユースティアのすぐ横に現れる。
「ぐぅっ!」
鋭い蹴りを放つドートル。腕を盾にしてなんとか防いだユースティアだったが、まるで鉄の塊がぶつかってきたような、そんな錯覚を感じるほどの威力。
骨が折れていないのが不思議なほどだ。
「安心してくださいユースティア様。痛いかもしれませんが、殺しはしません。そんなことをしては私がフィリア様に殺されてしまいますから。ですが、動けなくなる程度には痛めつけさせていただきますので、ご了承ください」
「ふざけるな」
ユースティアはドートルから目を離さないように注意しながら、自分の体の状態を確認する。
(体は十分に動く。というか、力を抑えなくていい分いままで以上に動かせる。それでもまだ馴染み切ってない)
ユースティアの心が拒否しているせいか、魔神としての力を十全に発揮できていない。身体能力こそ人の時よりも上がっているが、それ以外の力を十全には把握できていなかった。
(それでもやるしかない。こんな場所でレインを殺させてたまるか)
使える手は限られているが、それでも戦えないわけじゃないと、ユースティアは気持ちを切り替える。
「さぁいきますよユースティア様」
強烈な足技がユースティアの事を襲う。それを腕で防ぎながら同じように足技で返すユースティア。しかし、聖女としてそれなり以上に鍛えてきたユースティアよりもドートルの動きは速かった。
「ほらほら、どうしたんですかユースティア様。その程度では私を止めることなんて夢のまた夢ですよ」
「このっ!」
ダメージを覚悟で無理やり反撃しても、ドートルには容易く躱されてしまう。思ったように体が動かない。自分の認識と体のズレがユースティアの戦い難さに拍車をかけていた。
「動きが鈍いですよ」
「がっ!」
ドートルの蹴りがユースティアの脇腹に命中する。骨が持っていかれたのではないかと思うほどの衝撃。
「まさか手を抜いているんですか?」
「うる、さいっ!」
すぐさま起き上がったユースティアは痛みをこらえて反撃に打って出る。しかし、ドートルの蹴りが想像以上にダメージを与えていたのか、その動きは先ほどまで以上に鈍くなっていた。
「うーん、これは向こうに戻ったら一から教える必要がありそうです。私はそういうの苦手ですけどねぇ。他の人に任せてしまいましょう」
「誰が向こうに行くか」
「残念ですがユースティア様、あなたの意思は関係ないんですよ」
あくまで決定事項なのだとドートルは告げる。
「……私のことは私が決める。お前達に決められる筋合いはない。この命もなにもかも、全部私自身のものだ」
「それでどうすると? 言っておきますが、今のユースティア様では私には逆立ちしても勝てませんよ」
「あまり私のことを舐めるなよドートル。私は魔神である前に、聖女なんだ」
覚悟を決めた表情でユースティアは小さく呟く。
「一か八か……来い! 【
そしてユースティアは己の聖女としての武器、【
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