第85話 暴走

 レインの罪力を込めた『憤怒』の罪弾がユースティアに正面から直撃する。

 ユースティアの隙をついた完璧な一撃。レインの持てる全力を尽くした最大火力の一撃。

 撃った反動でレイン自身も吹き飛ばされながらも、確かな手ごたえを感じていた。


「やったか!」

「……いえ、まだです! レインさん、避けてください!」

「っ!」


 煙を切り裂くようにしてレインに向けて攻撃が放たれる。

 罪魔法ではない、ただの罪力をそのまま固めて放出しただけの一撃。だが、それでもレイン達にとっては驚異的な一撃だった。

 ユースティアの狙いが定まっていなかったこと、そしていち早く反撃に気付いたイリスのおかげで早めに回避行動をとることができていたおかげでなんとか直撃を避けたレインだったが、それでもその余波だけでレインは大きく吹き飛ばされた。


「なんて威力……さっきまでよりも格段に威力が上がってる」


 あまりの威力に離れた位置にいたエルゼとイリスまでその威力の高さがわかったほどだ。

 巻き上がっていた土煙が晴れた時、そこに立っていたユースティアの姿は無傷ではなかった。


「はぁ、はぁ……人間如きが……私に傷を負わせるなど」


 レインの全力の一撃で深手を負ったユースティア。しかし、それはそのまま行動不能へと至るほどではなかった。むしろ怪我を負わせたことでいよいよユースティアを本気にさせてしまったのだ。


「もう小細工は止めだ。イリスが罪力の起こりを読むと言うなら、エルゼが私の罪力を喰らうと言うならば……喰いきれぬほどの、追いきれぬほどの力を見せてやる」

「っ、こ、これは……」

「なんという……リオルデルさん、イリスさん、私の後ろに下がってください!」


 エルゼがとっさに声を飛ばし、レインとイリスはそれに素早く反応する。そしてその直後、全方位からの砲撃がレイン達のことを襲った。


「っぅ!」

「大丈夫ですか?!」

「……ダメです、数が多すぎて読み切れません!」


 レイン達の周囲、全方位を包み込むように罪力の力を放出し、イリスの眼による読みを無効化した。そして、エルゼの【魂源魔法】による罪力の無効化もさすがに全方位からの攻撃は無効化しきることはできなかった。

 魔障壁を展開し、ユースティアの猛攻からレイン達のことを守ることしかできず、反撃の糸口を探ろうにもユースティアの攻撃は一切止まることがなかった。


「まだこれだけの力を秘めていたとは……いえ、違いますね。追い詰めてしまったことで目覚めさせてしまったということでしょうか。彼女の中にある魔神としての力を」

「これが本気だって言うんですか」

「正確にはまだ慣れてないので、これ以上でしょうか。まだ僅かに力の行使にムラがあります。ですが、それも徐々に修正されている。こればかりはさすがと言ったところでしょうか。現状でも反撃の手立てがまったく見当たらないのは変わりませんが」

「隙が全く見当たらない……」


 無限に続く攻撃を防げるのはエルゼの力があってこそ。しかしその力もいつまで持つかはわからない。無尽蔵に近いエルゼの魔力も、同じく無尽蔵に近いユースティアの罪力を前にいつまで持つかはわからない。


「ある種の暴走状態。おそらく今の彼女はリオルデルさんに傷をつけられたことで怒りに支配され、眠っていた力が目覚めた状態。今までは私達のことを軽視していた部分もあるのでしょうが、それもなくなったようです。リオルデルの一撃に耐え切れたのは、彼女が魔神だからでしょうか」


 強力無比なレインの一撃。しかし相手にしているのは普通の魔人や魔物ではなく、魔を統べるものたる魔神。レインの一撃はその実、半分程度の威力になってしまっていたのだ。だからこそ耐え切れらてしまった。レイン達にとって唯一の誤算だった。


「すみません」

「いえ、リオルデルさんが悪いわけではありません。それに今は後悔するよりも先に現状の対処を考えなければ。このままでは押し切られるだけですから」

「そうですね」

「イリスさん、まだ視えてはいるんですね」

「は、はい。でもほとんど隙なんてなくて」

「全くゼロではないのならどうとでもできます。そして、リオルデルさんの攻撃も全くきいていないわけではない。ここからは私の時間です」


 そういうとエルゼは魔障壁の展開を維持したまま【罪姫アトメント】——【零涙智剣ティズダム】を地面へと突き立てる。


「目覚めなさい【零涙智剣ティズダム】。私達の智の力を彼女に思い出させてあげるとしましょう」

 

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