第81話 罪算機
「さぁ、始めるとしようか」
ユースティアとドートルに連携されることを警戒し、コロネは二人を分断するために一人ドートルの前に立ち塞がった。
そんなコロネのことを面白がるようにドートルはコロネの相手をすることを決めた。
「勝ち目がないとわかっているのに挑んでくるその姿勢は嫌いじゃない。まぁあちらはユースティア様がいれば問題なく対処できる。邪魔だったのは盾役と攻撃役をこなしていた君なわけだからね。でもせっかくの機会だ。心ゆくまで楽しませてもらおうか」
「猛れ——【
コロネは自身の中にある魔力を【皇牙暴拳】に喰わせることでさらに出力を上げた。魔力だけではない、コロネの理性も同時に【皇牙暴拳】に侵されていく。
「ガ、グルルルゥ……フゥ……」
「フハハハハ! いいねぇ、実にいい。理性を犠牲に本能を高め、さらに身体能力を向上させるか。興味深い【
ドートルがパチンと指を鳴らすと、何もないはずの空間から椅子が現れる。宙に浮かぶその椅子に腰かけた。
「『罪算機』レベル二、オペレーション開始。アルファ、ベータ起動」
「喰らい尽クス……」
椅子に座ったドートルの周囲に二つの球体が浮かび上がる。三十センチほどの大きさのその球体にはそれぞれ赤のラインと青のラインが入っている。不規則に動きながら浮かぶその球体は妙な存在感を放っている。
「さぁ、行け」
「ラァッ!」
地を這う様に駆け出したコロネに向けてアルファとベータと呼ばれた二つの球体がコロネに襲い掛かる。
コロネに高速で接近した球体はその形態を変化させる。いかなる原理か、球体にはびっしりと鋭利な棘が生えていた。当たれば串刺しになること間違いなしの紛れもない凶器がコロネに襲い掛かる。
しかしコロネは襲い来る二つの球体をほとんど本能的な反射だけで避けきってみせた。コロネに避けられた球体はそのままの勢いで地面に突き刺さり、地面を抉り取る。見た目に反してその威力はあまりにも絶大だった。
しかしそれも当たればの話。連続で襲い来る球体をコロネは全て避け切り、疾走しながらドートルへと肉薄する。
「ガァッ!!」
「ふむ、想像以上の速さか。面白いじゃあないか」
コロネが繰り出した一撃を前にドートルは一切表情を変えることなく、ただ冷静に観察を続けていた。
そしてコロネの拳がドートルに届く直前、戻って来た球体が二人の間に割って入りコロネの攻撃を防いだ。
「ッ!?」
コロネの手に伝わるのは金属のような硬さと、それでいて粘土のような柔らかさだった。
あまりにも相反する二つの感触にコロネは目を白黒させた。
「アルファとベータは大陸の東側にある特殊な金属で作られていてね。鋼鉄よりもなお硬く、しかし粘土のように容易く形を変形させることができる。不思議だろう? 興味深いだろう? 未だ知らずと書いて未知。状況に応じて形を変形させる不可思議な金属。この金属についてはまだまだ研究途中の段階なんだが、それでも応用すればこれだけのものを作りあげることができる。それが面白くてしょうがない」
「ゥルルル……」
「まだ完全に理性を呑まれたわけではないと。しかし時間が経過するごとに速さと力が上昇している。これは驚異的な数値だ。どれをとっても平均的な魔人の十倍以上……なるほど、これでは普通の魔人が勝てないわけだ。もっとも、それだけの身体能力を得ようとも理性まで呑まれてしまうのでは意味はないが。さぁもっとデータを取らせてくれ。まだその程度で終わりじゃないだろう?」
「ルルルゥ……ガァッ!!」
「悪くないスピードだ。一瞬でトップスピードに至り、それを維持できると。しかも力も速度も先ほどまでと比べてさらに20%近く上昇している。くくく、面白い」
上下左右、ありとあらゆる方向から攻撃を仕掛けるコロネ。だがその全てをドートルの周囲を飛び回る球体に防がれる。コロネがどれだけ本気で殴ろうとも球体を超えることはできず、ドートルの余裕の表情を崩すことはできなかった。
「どうした聖女。そんなものじゃないだろう。まだ『罪算機』はレベル二。序の口レベルだ。私も喰らい尽くすんだろう? できるものならやってみるといい」
「ルルルゥ……」
僅かに乱れた呼吸を整えながら、コロネはまだ残された理性で対策を考える。現状【皇牙暴拳】の力を六割まで引き出している。だが六割ではドートルには届かなかった。エルゼに許可されたのは八割まで。しかし、六割以上の力を引き出してどうなるのかはコロネにもわからなかった。
それでも、悩んだのは一瞬だ。
(今さら怖気づくわけにはいかないッスよね、姉様。たとえどんな手段を使ってでも、ここでこいつを引き留める。いや、こいつに勝利してみせるッス!)
「暴れ狂え——【皇牙暴拳】!!」
そしてコロネはエルゼに許可された八割まで力を引き出し、暴れ狂う獣へとその身を堕とした。
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