第70話 ディアボロスの最期
「『リフレクション』!」
「ギギ……ハンシャ……」
聖女と機械兵の魔法の反射対決。突如として始まったその戦いは、すでに十分以上の時が流れようとしていた。
互いに一歩も引かない、全力を尽くした攻防。最初は中級程度の魔法でしかなかった『ホーリーランス』の魔法が、上級魔法すら超える威力に達しようとしていた。
離れた位置にいるレインにまでその魔法の熱量が届くほどだ。魔法を直に反射し続けているエルゼが一体どれほどの熱量を感じているのか。レインにはおよそ想像もつかなかった。
すでに『ホーリーランス』の域を超え、全てを塵と化す破壊の光と化している。
エルゼはいとも簡単に魔法の反射をしているが、魔法の反射はそう簡単なことではない。
ともすれば無効化する以上に難しい。
なぜなら、こちらに向かってきている力場をそのまま反転しなければいけないのだから。
普通に魔法を放つ以上に魔力を消費するものだ。
並みの魔法使いであれば、エルゼと同じ術式を使っても魔力が足りずに反射ができないか、一度反射して終わり。
それを何度も、すでに百を超える回数行使しているというだけで、エルゼが、そしてディアボロスが規格外であるということを理解できるだろう。
「…………」
しかもこの時のエルゼは『リフレクション』以外にも複数の魔法を使っていた。
『ホーリーランス』の熱量に自身が焼かれないように保護する魔法。そして、魔法に威力に押されないように自身を大地に固定する魔法などなど。十以上の魔法を行使している。
エルゼだからできる芸当。
だからこそエルゼは全ての魔法使いにとって憧れの存在であり、畏怖と畏敬の念を込めて【万能の賢者】と呼ばれているのだ。
「なかなか粘りますね。ですが……その粘りもいつまでも続かない。あなたが機械であるがゆえに」
果てなく続くかと思われていた反射合戦だったが、エルゼの目にはすでに終焉が見えていた。
それは、ディアボロスが熱を感じない機械兵だからこそ犯してしまった失敗。
「ッッ……」
反射を続けていたディアボロスが、急に体勢を崩して膝をつく。
よく見て見れば、ディアボロスの装甲はグズグズに溶けていた。それは反射によって膨れ上がった『ホーリーランス』の熱量によるものだ。
魔法の反射を続けることはできても、装甲が熱量に耐え切れなくなってしまったのだ。もちろん生半可な熱量ではない。
すでにレイン程度であれば、近づいただけでも蒸発するほどの熱量だ。むしろこれまで耐えれていたことの方がおかしい。
「あなたがもし私と同じように魔法を十全に行使できたならば、話は別だったかもしれません。まぁ、それでも私の勝利は揺るぎないものでしたが。あなたは、自身の反射に負ける。あなたは成長することができるのかもしれない。しかし、魔法を行使するということはただの成長では足りない。もっと考える頭脳が必要です。それがあなたには足りない。魔法は、一朝一夕で手にすることができる力じゃない。あなたは実戦に出るのが早すぎた。そして聖女の力を侮った。それが、あなたの……いいえ、あなた達の敗因です」
エルゼの瞳はディアボロスの背後にいる魔人……ドートルへと向けられていた。
「さぁ、フィナーレです。『リフレクション』!!」
これまでとは違う、エルゼの本気の反射。
ディアボロスも反射しようとするが、溶けてしまった装甲では全てを反射しきることができない。
エルゼが反射してきた魔法に耐え切ることができず、最上級魔法の領域にまで到達した『ホーリーランス』のその身を焼かれた。
「ウォオオオ……オオオオッッ」
「なるほど、これでも焼き切れないと」
最上級魔法にも等しい火力であっても、ディアボロスは蒸発することなくその体を保っている。恐るべき耐久力だ。
「ですが——リオルデルさん!」
「っ! はい!」
エルゼの呼びかけに、レインはその意図を素早く察した。
ディアボロスの体から露出する三つのコア。レインはそれを見逃さなかった。
「【罪弾】——【暴食】!」
「『ウィンドスピア』!!」
レインの双銃とエルゼの魔法が全く同時にディアボロスのコアを撃ち抜いた。
その瞬間、ディアボロスがその動きを止め……ほとんど同時に瓦解し始めた。
機械の兵器から、ただの鉄くずへと。
「……終わった?」
「えぇ、どうやらそのようです。コアが再生するような動きも見られません。これで完全に沈黙したようです」
「はぁ……やっと……」
「なぜリオルデルさんがそこまで疲労しているんですか?」
「あぁいや、そうなんですけど。見てるだけで疲れちゃって」
「……まぁそうですね。リオルデルさんも苦労を掛けました。ですが、休んでいる暇はありません。今は急いでユースティアさんを探さなければ」
「……そうですね。エルゼ様は平気なんですか?」
「平気とは?」
「いえ、あれだけの大魔法を連発して……」
「あぁ、そのことですか。でしたら問題ありません。今の戦いで消費した魔力は二割以下ですから」
「二割……ですか」
「えぇ。ですから作戦行動には何も問題ありません……どうしたんですか?」
「……いえ、なんでもないです」
「? まぁいいです。行きましょう」
改めて、聖女というものの恐ろしさを感じたレインであった。
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