第67話 罪の味
「嘘だ……私が、この私がぁあああああああっっ!!」
コロネに向けて手を伸ばそうとするグラウ。しかし、その指先から少しずつ崩れさっていく。
バラバラになっていく体に、グラウの再生力すら間に合わず、絶命していった。
そしてコロネもまたがっくりと膝をつき、荒い息を吐いた。
「くぅ……はぁっ……あぁっ……」
「コロネ様!」
「近づいちゃ……ダメッス……」
「っ!」
「まだ……終わって……ない……」
コロネの目はグラウの居た場所を見つめている。
グラウは絶命した。しかし、それはつまりグラウの体内に留まっていた罪が一気に解放されたということでもあるのだ。
「想像以上の罪……このままじゃまずいッス」
グラウから解放された罪の塊の大きさはコロネの想像以上だった。今はまだ蠢いているだけで形を成してはいないが、もしこの罪の塊から魔物が生み出されればどれほどの力を持った魔物が生まれるかわかったものではなかった。
「傲慢の罪……何が生まれるかなんてわかんないスけど、厄介な魔物には違いないッス」
どくどくと脈打つ胸を押さえながら、コロネは必死に呼吸を整えて立ち上がる。
「今のうちに……浄化を……ぐぅ、このいい加減に……落ち着くッス……」
罪の贖罪をしようとするコロネだったが、己の中で暴れ狂う【
一度力を解放してしまったら、中々抑えることができないのが難点だった。今もコロネは理性を呑まれないようにするので精一杯だった。
(もっと罪を……もっと魔物を、魔人を。それが【皇牙暴拳】の願い。グラウ一体程度じゃ足りないってことッスか。なんつー我儘な武器ッスかこいつは)
三割。それがコロネがグラウと戦う時に出した力だ。理性を保ちながら【皇牙暴拳】の力を引き出せるギリギリのラインが三割だったのだ。
もしそれ以上の力を引き出せばコロネの理性は完全に呑まれ、ただ戦うだけの化け物と化すだろう。そんな自分をコロネは認めない。認めるわけにはいかない。
「武器が主を使おうだなんて、生意気なんスよ……」
ユースティアやエルゼと違い、コロネは【
「お前に構ってる場合じゃないんス。さっさとこいつを片付けないといけないんスから。いい加減……黙るッス!!」
頭の中に響く【皇牙暴拳】の声を無理やりねじ伏せてコロネは罪の前に立つ。
「はぁ……やっと落ち着いたッス。後は贖罪するだけッスね。それにしても……どんだけの罪を抱えたらここまでになるんスかね。魔人ってのはどいつもこいつも」
コロネはそっと罪の塊に手を伸ばす。その手を拒むように罪の塊は蠢き、逃げようとする。
「怖がらなくてもいいんスよ。大丈夫っス。罪はただ罪。私がきちんと浄化してみせるッス。姉様達のように上手くできるかはわからないッスけどね」
スッと目を閉じたコロネはまさしく罪を祓うに相応しい、神聖な雰囲気を纏っていた。
そして【魂源魔法】を……『罪喰らい』を発動した。
「“あなたの罪は私のモノ、私の罪は私のモノ”」
コロネがそっと触れると罪の塊にがうねり、その形を変えていく。
大きな塊から、小さく小さく。それはやがて手のひらに乗るほどの大きさになった。
「……ふぅ。なんとか成功したッスか。やっぱり魔法は苦手っス。さて、後は……いただきます」
コロネは息を吐くと手のひらに乗った罪の塊を一気に飲み込む。
「んぐ……はぁ、この味……美味しいと思っちゃう自分が嫌ッスね。本当に」
罪を飲み込む瞬間に確かに感じる罪の味。それはコロネにとって確かに美味だと感じれるものだった。それだけではない。嚥下した後に罪が体に広がる感覚がどうしようもなく心地よい。
コロネが装着している【皇牙暴拳】も、罪の味に喜び震えている。
「……罪を祓う聖女が罪の味に喜ぶ。なんつー皮肉ッスかねこれは」
このまま罪を喰い続けていれば、いつか取返しのつかないことになるのではないか。そんな思いがコロネの中にある。そんなはずはないと、罪の味に呑まれたりしないと言い切れないのがコロネとしては複雑だった。
「このままだと、いつか贖罪のためじゃなくて罪を喰らうために聖女を続けるんじゃないか……なんて。さすがにあり得ないッスね」
「……もう、終わったんですか?」
「あ、イリスさん。もう大丈夫ッス。グラウの罪は完全に贖罪したッスよ」
「お見事ですね。私は……なんの役にも立てませんでした」
「そんなことないッスよ。イリスさんがいたからここまでこれたわけッスし。それに罪を贖罪するのは聖女の仕事。それは他の誰かに任せちゃいけない仕事なんス」
「そうかもしれないですけど」
「大丈夫ッス。イリスさんの仕事はまだこれからッスよ。まだユースティア様が見つかったわけじゃないッス。グラウの件は片付けたッスけど、まだ何も終わりじゃないッスから」
「……はい!」
「問題は結局どこにユースティア様がいるかわからないってことッスけど……なんだか外も騒がしいッスし、とりあえず行ってみるしかないッスね」
「そうですね」
「必ず見つけてみせます」
そして、コロネとイリスは地下を出て再びユースティアを探しに向かうのだった。
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