第63話 コロネvsグラウ
「これが……これが魔人の力ぁっ!!」
魔人へと堕ちたグラウは、その身の内に湧き上がる力に抑えようのない高揚を感じていた。
「フハハ、フハハハハハッッ! 素晴らしい……素晴らしいぞ! これだけの力……人の身であった時とは比べ物にならないッッ! あぁ、無敵、無敵だ。今の私は……最強だ!」
高笑いしながら手あたり次第に周囲の物を壊し始めるグラウ。明らかに冷静さを失っていた。
「これは……面倒なことになったッス。イリスさんは下がっててくださいッス」
「わ、わかりました」
イリスはコロネに言われるがままに後ろに下がる。このままこの場にとどまってもコロネの邪魔にしかならないことを自覚しているからだ。
他者とは違う力を持っているとは言っても、それが役に立つのは主に戦闘以外。この状況でイリスにできることはせめてコロネの邪魔にならないようにすることくらいだった。
イリスが離れたことを確認したコロネは、キッと表情を鋭くしてグラウのことを睨みつける。
「それがあんたの望んだ力ッスか?」
「あぁそうだとも。これこそが私の望んだ力……これは素晴らしいものだ。己が魔人となって改めて再認識した。君達聖女はこの世界に不必要な存在だ」
「……どういう意味ッスか?」
「そのままの意味だ。決まっているだろう。聖女はこの世界に必要ない。なぜなら、魔人こそ人類の正当な進化の形なのだから! 君達は魔人となることを堕ちる、と表現するが私から言わせればちゃんちゃらおかしい。これは進化だ。魔人となることを阻む君達聖女はいわば進化を阻害する悪だ!」
確信をもって言い放つグラウにコロネはげんなりとした表情を浮かべる。
「魔人に堕ちた人はどいつもこいつも。あんた達が人類の進化した姿であるはずがないッス。罪に呑まれ、本能に抗うことを知らない魔人に何を言っても無駄かもしれないッスけど」
「そうだな。無駄だ。進化した種である私と、進化を認めぬ君とではこの論争は平行線。であればどのようにして答えを出すか……方法は一つだ」
フン、とグラウが壁を殴る。
軽く殴っただけだというのに、壁が陥没し地下全体が揺れる。
凄まじい破壊力だ。
「力で決める。勝者のみが正義。勝者だけが答えだ。勝者は全てにおいて正しいのだから」
「とんだ脳筋の考えじゃないッスか。まぁでも簡単でいいッスね。こっちもその方が楽っス」
「では決まりだ……行くぞ!!」
グラウが踏み込むと同時に大きく振りかぶり、コロネのもとに到着すると同時にその頭に向けて振り下ろす。
もし直撃すればコロネの頭は林檎のように弾け飛ぶだろう。
しかし、そんな必殺の拳を前にしてもコロネは微塵も焦りの表情を見せなかった。
「甘いッスよ!」
「っ!」
ガシッとグラウの拳を掴み取るコロネ。そのままの姿勢で押し合いになる。コロネのことを押し潰さんと頭上から力を込めるグラウだったが、コロネは潰れるどころか逆にグラウのことを押し返し始めた。
「なんだとっ!?」
「どうしたんスか? ご自慢の魔人の力はその程度なんスか? だったら期待外れッスね」
「くっ……舐めるなぁ!!」
コロネの顔面目掛けてグラウが膝蹴りを放つ。しかしそれを予見していたコロネはスッとグラウの拳を離して膝蹴りを避けた。
「その程度の力で調子に乗ってたんスか? だったらお笑い種ッスね。今まで戦った魔人の中で一番弱いくらいッス」
「なんだとっ!!」
「この程度のことで怒るあたり、人間だった時も同じようなコンプレックス抱えてたッスか?」
「っ!」
コロネの言葉にグラウは一瞬押し黙る。それは本当のことだった。グラウは魔導神道のリーダーではあったが、それは立場的に一番上だと言うだけで実力が伴っていたわけではない。
誰もがグラウの言うことに従っていたが、部下の中にはグラウよりも強いものが何人もいた。
組織の中だけでも複数人存在するのだ。外に目を向ければグラウよりも強い存在などゴロゴロと存在する。
そのことがグラウには我慢ならず、どうしようもなく腹立たしかった。
「黙れ……黙れ黙れ黙れぇ!! 貴様に何がわかる。私の何がわかるというんだ!」
「そんなの知らないッスよ。あたしはあんたに興味なんて欠片もないッスから。ただ……善かいの借りはきっちり返させてもうらうッス。そんで、色々と吐いてもらうッスよ!」
「断る!」
「じゃあこっちも力ずくで行くッスよ!」
「負けん、私は負けん……負けてたまるものかぁ!」
与えられた屈辱がグラウの内からさらなる力を引き出す。
コロネはグラウの拳を避けながら肉薄し、その体に拳を叩き込む。しかし、グラウの体は鋼のように硬く、素手で殴ったコロネの手が痺れるだけだった。
「ちっ、硬いッスね」
「ふん! 貴様の攻撃などこの私には通じない。残念だったな。だが私は違う! 私は全てを超える、超えてみせるぞ!」
グラウの欲望に答えるように、その力が加速度的に増していく。それは明らかに常軌を逸した成長速度だった。
逆にコロネはこの地下に来てからずっと倦怠感を覚えていた。力を使えば使うほどにその倦怠感は増していく。
そうして戦っている内にコロネは気付いた。自分が力を出し切れない理由を。
「っ! まさか……この部屋自体が原因っスか」
「ご明察、と言っておこうか。そうだ。この部屋は何も魔人のいる世界の空気をまねているだけではない。魔人の力は増幅され、人の力は削られる。ここはそういう場所だ。つまり、この場で戦い続ける限り貴様に勝利の可能性はないのだ!」
「ムカつくッスね。その調子の乗り方……いいッスよだったら見せてやるッス。聖女が聖女と呼ばれる所以を」
グラウから距離を取ったコロネは、深呼吸して構えた。
「目覚めるッス【
そしてコロネは【
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