第62話 本当の自分

「あの子は……『魔壊機ディアボロス』は人間と魔人をコアのエネルギーにすることで、すぐにエネルギーを枯渇する問題を解決。そして魔鋼の人間の魔力と生命力を吸収し、力を増幅する性質を利用し装甲をさらに強化。それだけでなく、魔人の力を利用し魔法を行使する力を手に入れた」


 『魔壊機ディアボロス』のコアは人間と魔人に繋がっている。しかし、繋がれている人間も魔族も残されているのは必要最低限の部分だけ。

 四肢は斬り落とされ、しかし死ぬことはないよう生命の維持だけされている。

 倫理というものをかなぐり捨てたかのような最悪の兵器だ。


「人道? 倫理? そんなものクソくらえ。そんなものに縛られているから開発も研究も先に進まない。開発を進めるためならば、人も魔人も等しく材料。そうして完成したのがわたしの可愛い子、『魔壊機ディアボロス』!」

「悪趣味な……」

「おやおや。ユースティア様はお嫌いですか? あなた様はこういう考えは嫌いではないと思っていましたが」

「お前と一緒にするな」

「これは手厳しい。ですがわたしの言っていることは真理です。命などというものに縛られれば、研究は進まなくなる。そんなにつまらないことはないとは思いませんか?」

「…………」


 ユースティアはドートルの言葉に賛同しない。しかし、否定もしなかった。

 それが何よりも如実にユースティアの内心を現していた。それを見たドートルはニヤリと笑う。


「ユースティア様……あなたにとって大切なのは、人類の未来などではないでしょう。あなたはただ力だけを求めて聖女となったのでしょう? あのお方に勝利するために。そしてあなたは、力を手にするためならば……他を切り捨てることができる。今はその必要がないから決断しないだけで。必要とあらば、力のためならば私を同じ決断をできると思っていましたが」

「黙れ」

「もし私があのお方を倒せるだけの力をあなたに与えると言ったらどうしますか?」

「っ!」

「ほら、揺らいだ。僅かであっても、確かに今あなたは心を動かした……あぁ、またそうやって私から目を逸らす。図星なんですね」

「黙れ!」

「ふふふっ怖いですねぇ。誰だって大切なのは己なのですよ。そして己を守るために、己の欲求を叶えるために力を欲しがる。武力、権力、あらゆる力を求める理由の根幹は全て己へと帰結する」

「知った風な口を——」

「知りませんとも! わたしはあなたの本当など何も知らない。ただ私のことは誰よりも知っている。だからこそ私は私の本当をあなたに話した。私の言葉に思い当たる節がありましたか? もしそうでないなら関係がないと、理解できないと突っぱねればいい。それができないのは……あなた自身が心の奥底でそう思っているから」

「っ!」

「ほら、今もまたそうやって目を逸らす。いいですかユースティア様。私とユースティア様は同じ存在なのですよ。力を求め、他者を蹴落とす。それだけの存在! あなたは己の身に流れる魔人の血に、逆らうことができない。もっと素直になりましょうユースティア様。いいんですよ、力を求めることに素直になっても。それは正しい欲求です。ただそのために人類の側にいるのがいただけない。私達であれば、あなたの力をより成長させることができるのです。私達と共に参りましょうユースティア様……」


 ドートルのその言葉は甘い毒のようにユースティアの心を侵す。

 母に、魔神王フィリアを討つ。そのために力を求めているユースティアにとって、さらなる力を得られることは願ってもないことだ。

 しかし——。


「断る」

「……おや、どうしてですか?」

「私にも私のプライドがある。それに忘れてないか? 私にとって復讐の相手は母だけじゃない。お前達もだ。そんな存在にどうして力を借りることができる。私は私のやり方で強くなる。私のことは私が誰よりも知っている」

「……はぁ。やはりダメですか。今度こそと思ったのですが。強情なのは母譲りですか? ですがやはりはいそうですかと言うわけにもいかないのです」

「ふん……お前の自慢の兵器はもう壊された。レイン達はすぐにここに来るぞ。その前に逃げたらどうだ?」

「安い挑発ですね。口喧嘩は弱いようで。それに……私の子が破壊されたといいましたか?」

「?」


 ユースティアの視界の先の映像。エルゼとレインが戦っていた『魔壊機ディアボロス』は確かに破壊されている。エルゼによって四肢を切断され、その機能を完全に停止しているのだから。

 しかし、それでもドートルは笑みを浮かべたままだった。


「あの子は壊れてなどいませんよ。えぇ、あの子は壊れない。全てを破壊するまであの子は止まらない」

「それはどういう……っ!」


 ドートルの言葉を証明するようにディアボロスの体が駆動し始める。

 完全に沈黙していたディアボロスが動き出したことに驚いたエルゼとレインは慌てて距離を取る。


「なんで、あいつは沈んだはずじゃ」

「コアがあれ一つだけだと思いましたか? それは甘い。コアが一つでなければいけない理由などないんですよ。そしてあれは……自己修復機能を備えている」


 ディアボロスの中にいる人間と魔人が悲鳴を上げる。無理やり魔力と生命力を吸収され、ディアボロスはその体を修復していく。

 エルゼが慌てて魔法を放つが、復活した魔法反射装甲に阻まれてしまう。


「あれにはコアは三つある。そして、一つのコアが破壊されようとも他の二つが壊された一つを修復し、再生する。つまり、あの子を壊したいのなら三つ同時にコアを破壊する必要があるんですよ。見つけられますかねぇ、彼女達は。三つのコアを」

「エルゼ、レイン……」


 再起動したディアボロスをドートルは我が子の晴れ舞台を見守るような目で見つめ、ユースティアは何もできない己を悔むことしかできなかった。

 

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