第61話 開発の経緯

「うーん、どうしたもんかなぁ」


 東大陸での『魔壊機ディアボロス』を開発している最中、ドートルはその開発が上手くいかないことに悩んでいた。


「魔法反射装甲。魔法を主体として戦う人間にとってこれほど有用な兵器はない。でも、それだけじゃまだ足りない」


 特殊な金属を使った魔法反射装甲の作成、ドートルはこの開発には成功していた。しかし、まずはその完成を目指すあまり他の問題が山積していた。


「金属を集めるのにも費用がかかる。そもそも加工できる人物が少ない。それにエネルギーも足りない。ないものだらけだ。どうしよう」


 そしてドートルはしばらく思案した結果、従来の通りの兵器開発では『魔壊機ディアボロス』を完成させることはできないという結論を出した。

 

「こういう時は思い切ってばっさり切り捨てちゃうのが楽なんだよねー。魔法反射装甲は完成したし、まずはこれを使って武器でも作ってみようかな。気分転換、気分転換♪」


 考えが煮詰まった時、ドートルがいつもすることだ。順調に進まないならいっそ全く別のことをする。そうすることで頭をリフレッシュすることができるからだ。


「これ使って作りたい武器……うーん、武器より防具かな? 盾とか鎧とか。まず簡単に盾から作ってみよーっと」


 ルンルンと浮かれた気持ちで盾の制作に取り掛かるドートル。盾ならば作るのはそれほど難しいものではない。それほど時間がかかることもなく盾の試作品が完成した。


「……これ、どうしようかな」


 気分転換に作った魔法反射の盾だったが、完成させてからドートルは気付いた。

 この盾を使わせる人物がいないということに。

 基本的に魔人は己の肉体、そして能力を武器にして戦う。それで十分だからだ。中には武器を使う者もいるが、それは能力が弱い魔人だけだ。

 防具や盾を使う魔人はほとんどいないのだ。


「うーん、困った。せっかく作ったのに使わないままなんてもったいないし、何よりわたし自身が性能を見たい。そうだなぁ……あっ!」


 そこで目に入ったのが奴隷として使っている人間の姿だった。


「この子達使えばいいんだぁ。ねぇ、そこの君」

「っ! は、はい……な、なんでしょうか」

「わたしに声を掛けられた運の良い君にチャンスをあげよう。西大陸に逃げたい?」

「っ……」


 ドートルの声を掛けた人間の男の目に僅かな希望の光が宿る。ドートルの言葉を疑う反面、西大陸への逃亡という言葉が非常に魅力的な餌として映っているのだろう。

 そして逡巡の後、男は迷いながらも答えを出した。


「な……何をすればいいんですか」

「そうだよねぇ、逃げたいよねぇ。大丈夫、チャンスはあげるよ。君には魔人と戦ってもらいたいんだ」

「魔人と?! あ、い、いえ。魔人様と? で、ですが私は魔法を使えるわけではありませんし……」

「大丈夫大丈夫。ちゃーんと条件はつけるからさ。それでやる? やらない? 千載一遇のチャンスだと思うんだけどなぁ」

「……や、やります。やらせてください」


 どのみちここに残っていても先に待つのは実験動物として死ぬか、魔人の機嫌を損ねて殺されるか。そのどちらかだ。

 だからこそ男はドートルの提示したチャンスに飛びついた。


「よし決まり。それじゃあさっそく行こうか」


 ニヤニヤとしながら実験場へと向かうドートル。その途中で部下の魔人を適当に捕まえて、無理やり連れていった。

 実験場に着いたドートルは魔人と奴隷の男を同じ場所に放りこむ。


「それじゃあ奴隷君。君にはこれからそこの魔人君と戦ってもらう。武装はさっき渡したその盾だけ。でも安心してくれていい。ちゃんと条件は付けるから」

「ドートル様、どんな条件をつけられてもこの奴隷に負ける気なんてしませんが。いいんですか? 実験になりませんよ」

「いいんだよ。君の攻撃手段は魔法だけだ。ただし、その魔法はどんな魔法でもオッケー。殺す気でお願いね」

「わかりました。はぁ、さくっと終わらせてもらいますよ。こっちも暇じゃないんでね」

「お、俺ははどうすれば……」

「君はただ防ぐだけでいいよー。そんなに硬くならないで。気楽にねー」


 ドートルの言葉に奴隷の男の顔が絶望に染まる。当たり前だ。手に持った盾だけで魔法を防ぐことなどできるはずがないのだから。

 希望の餌を与えられ、実験動物にされただけだったと男は絶望しきっていた。


「まぁお前は運が無かったと思って死んでろや——『ファイアランス』」


 人を丸呑みにできるであろうほどに巨大な炎の槍が奴隷の男に襲いかかる。


「ひぃ、ひぃいいいいいいいっっ!!」


 反射的に盾で身を隠す男。その次の瞬間だった。

 魔人の放った魔法がその威力を増大させて跳ね返る。


「は? うぁああああああああっっ!!」


 燃え上がる魔人の体。対して奴隷の男の体には傷一つない。

 そして、その光景を見ていたドートルは僅かな驚きに目を見開く。

 それも当然だ。ドートルは魔法の反射効果はつけたものの、威力を増大させて返すカウンターのような効果はつけていないからだ。


「ただの反射じゃない? 明らかに威力が上がってる……いったいどういう……」


 思案にふけるドートルの視界の先で、奴隷の男は喜びを爆発させる。


「やった……やった! やったぞ! 自由、自由だ! これで俺は自由なんだ!」


 魔人が倒れたということは、奴隷の男の勝利ということだ。

 それはつまり解放条件を満たしたことになる。


「早く! 早く解放してくれ! 俺を……っぅ!?」


 喜びを爆発させていた男だったが、急にがくりと地に膝をついて倒れて動かなくなる。


「あれ? どうしたのー? おーい」


 ドートルが呼びかけても反応は無い。近づいて確認して見れば、奴隷の男はすでに事切れていた。


「……あっ、なるほど。そういうことか」


 盾を拾いあげてドートルは気付いた。この盾が人間の魔力を吸っていると言うことに。


「魔力を吸い尽くされたから、男の生命力を代わりに吸ってたわけか。それで生命力も吸い尽くしたと。あぁ、ディアボロスのエネルギー消費が予想以上に早かったのもそれが原因かぁ。なるほど……」


 特殊な魔鋼と人間、そしてエネルギーの枯渇。ディアボロスの抱えていた問題がドートルの頭の中で次々と解決していく。


「魔法と魔法反射。魔人と人間……あぁなるほど、なるほど。そういう手段があった。なんだ簡単なことじゃないか。あぁ素晴らしい! すぐに試さないと!」


 最早地面に転がる奴隷の男にも部下の魔人にも欠片も興味は無く。

 頭の中にあるディアボロスを完成させることにのみその興味は向けられていた。

 そして、それからほどなくして『魔壊機ディアボロス』は完成した。人間と魔人、この相反する二つの種族をエネルギーの媒体として動く最悪の機兵が。

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