第60話 ディアボロスの秘密

 魔法を反射し、自身もまた魔法を使うことができる魔壊機ディアボロス。

 エルゼが複合属性の魔法を使っても全て反射された。

 相性は最悪。それでもエルゼは逃げるわけにはいかなかった。


「とはいえ、やりようはいくらでもあるんですが……あの機械兵……違和感が拭いきれない。何か秘密がある?」

「どうしますかエルゼ様。魔法で防御されてたら関節部を攻撃することもできません。俺の持ってる特殊な銃弾を使えば可能性はありますけど」

「……考えている暇はありませんか。リオルデルさん、関節部以外であれば銃弾が通るかどうかを試してください。その特殊な銃弾とやらを使うのはその後です」

「わかりました」

「魔法反射と魔法行使。この二つを共存させる技術力は流石としか言いようがありませんが……何か必ず秘密があるはずです」


 エルゼは再び駆け出し、ディアボロスに肉薄する。


「あなたの動き、封じさせてもらいます——羽衣よ」


 エルゼの戦闘聖衣がその指示に応じて動く。

 エルゼの周囲に浮かんでいた赤い羽衣が伸び、ディアボロスの体に巻き付く。

戦闘聖衣の力で拘束。普通であればこれで動けなくなる。

 しかし、このディアボロスは決して普通ではなかった。


「っ……これで拘束してもまだ動けるとは。驚異的な力ですね」


 緩慢な動きではあるがディアボロスはその動きを止めはしなかった。それどころはエルゼの羽衣も引きちぎらんとどんどん出力を上げていく。


「このままでは本当に引きちぎられかねませんね。それはさすがに許容しかねます!」


 エルゼは剣を振るいディアボロスに攻撃を仕掛ける。

 魔法の補助という側面が強いエルゼの【零涙智剣(ティズダム)】だが、近接戦闘に使えないわけではない。むしろ普通の剣と比べればその切れ味は【零涙智剣】の方がはるかに上だ。

 そしてエルゼ自身も魔法を主体にして戦っているというだけで、近接戦闘の心得はしっかりを持っている。

 地下にて。

 ドートルは村中に張り巡らせている機械の虫から見れる映像でエルゼとレインがディアボロスと戦い始めたことを確認していた。


「さぁ、ようやく始まった。わたしが作りあげた対聖女兵器『魔壊機ディアボロス』。近年稀に見る傑作なんですよ。魔法の反射、魔法の行使。相反する二つを共存させるためにどれほど苦労したか。素晴らしいと思いませんかユースティア様」

「全く思わない」

「はぁ……冷たいですねー。そろそろ少しくらい心を開いてくれても良いではありませんか」

「誰が」

「そんな様子ではお母様が悲しまれますよ? ずっとずっと会うのを楽しみにしていたんですから」

「私はあいつに会いたくなんてない……あぁいや、違う。私にも会う理由があった」

「おや。そうなんですか?」

「あいつを殺す。そのために私はあいつに会わなきゃいけない」

「まだそんなできもしないことを……」


 ドートルは呆れたようにため息を吐き、鎖で繋がれたままのユースティアへ目を向ける。


「聖女の力を手に入れて増長しましたか? 勘違いしているようなので訂正しておきますが、この世界が今もこうして平和なのはあのお方の温情あってのことですよ。もしあのお方が本気を出せばこの世界は一瞬で魔人のものとなるのですから」

「お前らこそ忘れるな……私はあいつを殺すためなら、そしてお前ら魔人を滅ぼすためなら、なんだってする」

「怖いですねぇまったく。まぁいいですけど。儀式が完成すればそんなことも言ってられないんですから。ですが、儀式まではまだ後少し時間がありますから。聖女様がどんな風にディアボロスと遊ぶのか、楽しく観察しましょう」


 そう言ってドートルは子供のように無邪気な笑みを浮かべ、画面へと目を戻した。






□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■


「ふっ!」


 しかし、エルゼの剣を持ってしてもディアボロスの体に傷をつけることはできなかった。

 甲高い音を鳴り響かせながら、エルゼの剣を弾き続ける。


「硬いですね。まぁそれも想像通りですが」

「エルゼ様、撃ちます!」

「っ!」


 レインの言葉に合わせてエルゼはディアボロスの傍から離れる。

 それに合わせて引き金を引いたレインはディアボロスの頭部を狙う。

 モノアイを破壊できれば視野を潰せると判断したからだ。


「っ!? これも弾かれた!?」

「どうやら普通の銃弾では通らないようですね。リオルデルさん、その特殊な銃弾とやらを使えますか?」

「……はい。いけます」


 普通の銃弾では通用しないと判断し、レインは【罪弾】を使うことを決めた。その中でも一番威力の高い《憤怒》の【罪弾】を。

 一つ懸念があるとするならば、今のレインの体は《憤怒》の【罪弾】の反動に耐え切れるかわからないということだ。《憤怒》の【罪弾】は協力な分、反動も大きい。

 平常時ならばまだしも今の限界まで疲労した状態でまともに撃てるかどうか。それだけがわからなかった。


(いや、やるしかないんだ。覚悟決めろ。腕の一本くらい持って行かれる気持ちで撃つんだ)


 レインは覚悟を決めて《憤怒》の【罪弾】を装填する。これが通用しなければいよいよレインの打つ手はなくなる。


「いけます!」

「上々です。そろそろ繋ぎ止めておくのも厳しくなってきましたから。全力の一撃をお願いします」


 ディアボロスは徐々に出力を上げ、エルゼの羽衣でもその動きを完全に止めることは難しくなり始めていた。


「喰い尽くせ!」


 引き金を引いた瞬間、のけぞるような衝撃がレインのことを襲う。

 放たれた《憤怒》の【罪弾】はレインの狙い通り、ディアボロスに命中する。しかし撃った時の衝撃で銃口がブレてしまったせいか狙ったモノアイではなく胴体の方に弾丸は命中した。

 全てを喰らい尽くす破壊の銃弾がディアボロスの体を喰い尽くさんと襲いかかり、対するディアボロスはその強固な体で弾丸を防いでいた。

 

「これでも貫けないのか!」

「いえ、効果はあったようです」


 弾丸はディアボロスの体を貫くことはできなかった。しかし、その装甲に多大なダメージを与えていた。

 それまでとは明らかに違う挙動を見せるディアボロス。

 その動きは先ほどまでよりも緩慢になり、とうとう地面に膝をついてしまった。


「『ファイアボール』」


 膝をついたディアボロスに向けてエルゼは魔法を放つ。

 しかし今度の魔法は反射されることなくディアボロスの体に命中した。


「魔法が反射されない!」

「先ほどのリオルデルさんの一撃でダメージが許容量をオーバーし、内部の修復にリソースを割いているのでしょう。その結果、魔法反射の装甲にエネルギーを回せなくなった。つまり、今なら魔法が通じるということです。ここで一気に畳み掛けます」


 エルゼは一気に複数の魔法を展開し、ディアボロスの修復が間に合わないほどの速度で撃ちこみ続ける。

 立ち上がろうとするディアボロスだが、エルゼはそれすら許さず怒涛の連撃を加える。

 腕、足、頭と次々と装甲が破壊されとうとうディアボロスの体は胴体だけが残っていた。


「……容赦ないですね」

「容赦する必要がありませんから。ですが、あそこまで破壊すればもう動けはしないでしょう……ん? 何か様子が変ですね」


 エルゼの視界の先で、ディアボロスの胴体部分がガコンという音と共に開き始める。

 そうして、ディアボロスの内部が明らかになる。


「中が見えて……っ! これは」

「なんだよ……これ……」


 ディアボロスの内部を見たレインとエルゼは愕然とし、目を見開く。

 

「人と……魔人……」


 ディアボロスのコア、そしてエネルギーの供給源として使われていたのは人と魔人だった。

 

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