第59話 対聖女兵器

 『魔壊機ディアボロス』。

 ドートルの作り出した、対聖女兵器。

 その脅威がついにエルゼとレインの前に姿を現した。


「なんだ……これ」

「隠し玉といったところでしょうか。何か用意しているだろうと思っていましたが、まさかこんなものを出してくるとは」


 駆動音を鳴り響かせながら、その巨体を動かすディアボロス。

 三メートルの届こうかという大きさだ。頭部のモノアイでレインとエルゼのことを見下ろしている。


「……『アナライズ』」


 エルゼは即座に分析の魔法をかける。

 ディアボロスの弱点、コアの位置などを探るためだ。

 しかしエルゼの魔法はあっさりと弾かれてしまった。


「魔法を弾く……なるほど。面倒かもしれませんね」


 弱点を魔法で見抜けないとなれば後は手探りで探していくしかない。

 しかし、『アナライズ』の魔法が弾かれたことでエルゼの中には一つの懸念があった。


「試してみるしかありませんね——燃やせ『ファイアボール』」


 初級の火魔法『ファイアボール』。魔力を持つ者であれば、練習すれば誰でも使えるような魔法。

 もちろんのことながらその威力は低い。

 魔物や魔人相手に使うことはほとんどない魔法だ。

 しかしエルゼはそれをあえて使った。


「っ!」


 ファイアボールがディアボロスの体に当たった直後、エルゼは己の予想が正しかったことを悟る。

 ディアボロスのモノアイが輝いたかと思った次の瞬間、エルゼの放った魔法が反射されたのだ。

 それも、何倍もの威力になってエルゼに跳ね返って来たのだ。

 跳ね返ってきた魔法をジャンプで躱すエルゼ。そこを狙ってディアボロスは攻撃してきた。

 

「動きはそれほど速いわけではないのですね」


 空中で身をひねったエルゼは伸びてきたディアボロスの腕を蹴り飛ばしてその反動を利用してレインの隣に着地した。


「なんですかあいつ」

「私用に持ってきた兵器といったところでしょうか。見てください、さっきまで私の立っていた場所を」

「っ、地面が……」


 まるで大きな爆発でもあったかのように抉れ、クレーターが出来上がっていた。


「私が放ったのは『ファイアボール』。決して強い魔法ではありません。それをあの威力で反射してきました。あの機械兵……おそらく魔法反射装甲でもつけているのかもしれませんね」

「魔法反射装甲って……そんなのあるんですか?」

「まだ実用段階には至っていない代物ですが研究中のものがあります。ですが……その魔法反射装甲を相手側が完成させている可能性もあります」


 エルゼのその言葉には僅かな悔しさが滲んでいた。

 自分達の国で完成していない代物を魔人が完成させているかもしれないのだから、当然なのかもしれない。


「魔法無効装甲であれば完成品があります……そのためには特殊な鉱石が大量にいります。あんな巨体を作れるようなものではないのですが。何か別の技術を使っている? ダメですね。現状では何もわかりません。一つ言えることがあるとすれば……あの機械兵は私と相性が最悪ということですね」


 魔法を反射する装甲。それは、魔法を主体に戦うエルゼにとって最悪とも言える敵だった。

 ファイアボールですら凄まじい威力で反射される。であれば、エルゼは本気で魔法を撃てばどうなるか。

 正直想像もつかなかった。もちろん反射限界を超えて反射できない可能性もある。しかし、もし万が一反射された時に対処できるかと問われれば答えはわからない、だった。

 せめてどれだけの威力で反射されるかをわかってからでなければ大きな魔法は撃てないとエルゼは判断するしかなかった。


「でもそれだけじゃない。あの機械兵……どこか違和感がある」

「どうしますかエルゼ様」

「……あれを放置する選択肢はありません。相手をできるのは私達だけでしょう。もし無視してしまえば他の者達に大きな被害が出る。そんなことはできませんから」

「そうですね。でも魔法が効かないなら……俺の銃を使いますか」

「試してみましょう。関節部分を狙ってください。私が囮になります」

「はい!」


 ディアボロスは優先的にエルゼのことを狙っている。だからこそエルゼは己の身を囮にすることにしたのだ。


「『アースランス』『アイスアロー』『サンダーボルト』」


 同時に三つの魔法を展開するエルゼ。様々な属性の魔法を同時に使うことで装甲を突破できないかと考えてのことだ。

 しかし、ディアボロスは着弾すると同時に魔法を弾き返す。


「同時に三属性で攻撃しても反応できると。この分では複合魔法を効果が薄そうですね。まったく、厄介なものを作りあげてくれたものです」


 敵を褒めるのは不本意であるが、ディアボロスの装甲は見事というほかなかった。


「でも必ず弱点はあるはずです。それだけ機能が優れていようとも、どこかに必ず穴がある」


 そうしてエルゼがディアボロスの気を引いている間に、レインは狙いを定めていた。

 体から疲労は抜けきっていない。それでも撃つことくらいはできる。

 至近距離で戦うエルゼに当たらないよう、しっかり狙いを定め関節部分を狙う。

 機械である以上、間接部分を壊してしまえば動きが一気に鈍くなるからだ。


「まずは足だ」


 狙うのは膝関節。エルゼが後ろにジャンプしたタイミングを見計らってレインはその引き金を引く。


「はぁっ!」


 銃弾はレインの狙い通り関節部分に向けて真っすぐ飛んでいく。

 しかし——。


「「っ!?」」


 止められた。

 レインの銃弾は、膝の関節部分に当たったと思ったその瞬間に止められたのだ。

 

「魔法!?」


 エルゼが驚きに目を見開く。

 ディアボロスが使ったのは魔法だった。関節部分を魔法で覆い、防御したのだ。

 魔力を持たないはずの機械が魔法を使った。その事実にエルゼは驚きを隠せなかった。

 そして、それだけではなかった。


「……ダ……ダーク……『ダークバレット』」

「っ!」


 エルゼは己に向けて放たれた魔法を剣で切り裂く。


「魔法反射するだけでなく、自身で魔法を使うことまでできるとは……本当に面倒な相手になりそうです」


 エルゼは小さく嘆息し、剣を構え直した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る