第50話 戦いの前

 朝。クロノドルへ突入するための準備を終えたレイン達は宿の前で最後の作戦の確認をしていた。


「昨日、クロノドルの様子を確認させたところ宿の防備を固めているのが確認されました。見つかったのは『魔導神導』の構成員達だけではなく、他にもいくつかの魔人崇拝組織の姿が確認されました。おそらくほとんどの人員をクロノドルに集結させているものと推測できます。我々の勝利条件は、ユースティアを取り戻し、魔人崇拝組織の企みを打ち砕くこと。このどちらかが達成できなかった時点で我々の負けです」


 エルゼの言葉をレイン、イリス、タマナ。そしてこの地に集結した贖罪教の兵士達がやる気に満ちた表情で聞いている。


「こちらの存在もすでにあちらにバレていることでしょう。そのうえで、私達は勝利します。私達に負けは許されません。その覚悟と意志をもって本作戦に挑んでください」

「「「はいっ!」」」

「では改めて作戦の概要を説明します。部隊を二つにわけます。私について来る舞台と、コロネについてく部隊です。その振り分けは事前に伝えてある通りです。まず私が正面から仕掛けるのを確認してから、コロネ達は奇襲する形で背後から仕掛けてもらいます。地理的優位はあちらないありますので、時間をかけず、迅速に目標を達成します」


 エルゼが率いる部隊とコロネが率いる部隊の二つに分かれて行われる今回の作戦。レインはエルゼと共に、そしてイリスはコロネと共に行くこととなっていた。


「ユースティアがどこに囚われているか、それについてはまだ一切の情報がありません。見つけ次第、私とコロネに速やかに報告すること。そして、クロノドルには魔人がいるものと推定されます。魔人を見つけた場合も同様です。私達の指示を仰いでください」


 カランダ王国の贖罪教の兵士達は屈強なれど、魔人に勝てるほどの人員は存在しない。せいぜいできても時間稼ぎ程度だ。

 レインが魔人化してようやく可能性が見えるといった程度だ。それだけの力の差が人と魔人の間にはあるのだから。


「この先は死地です。生きて帰れるかどうかもわかりません。それだけの覚悟を持って臨んでください。いいですね」

「「「はいっ!!」」」


 エルゼの言葉に、その場に居た全員が迷うことなく返事をする。

 レインも同様だ。迷いなどあるはずがない。死地など何度も経験してきた。そしてそのたびにユースティアに助けられて来た。


「だから今度は……俺の番だ」

「良い返事です。それでは、我々の力を魔人崇拝組織に、そして魔人に教えて差し上げましょう。出撃します!」


 エルゼの号令と共に、レイン達は出撃した。







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 そして同じ頃、クロノドルではグラウ達がエルゼ達を迎え撃つ準備を進めていた。

 聖女達がやって来るというのに、座して待つほどグラウ達も愚かではない。攻めてこられそうな場所に砲台の設置。戦闘員の配備など。グラウを主導として着々と準備を進めていた。


「やーやー、やってるね」

「これはドートル様。わざわざこのような場所に足を運ばずとも」

「そういうわけにはいかないよー。君達がわたし達のために一生懸命頑張ってくれてるんだから。順調そうだね」

「はい。いつ、どこからやって来ても大丈夫なようにしています。万全の体勢で迎え撃ってみせます」

「うんうん。もしちゃーんと聖女達を撃退して、儀式を成功させることができたらちゃんと君達のことを魔人にしてあげるから」

「は、はい! ありがたき幸せ!」


 魔人化というグラウの悲願。それを目前にグラウはこれ以上ないほどにテンションを上げていた。


「あ、ついでにさー。わたしの作った兵器の性能実験もしたいんだよね。一緒に配置してもらってもいいかな」

「性能実験ですか? いったいどのような兵器なので?」

「ふふふっ、それは見てからのお楽しみー。置いて大丈夫な場所ない? 三体分くらいあるんだけど」

「それでしたら、ドートル様達のおられる地下への入り口を守らせてはいかがでしょうか。十分な兵力は配置しておりますが、万が一ということもありますので」

「んー、できれば最前線が良かったけど……まぁいいか。どうせ来るだろうし。よし、じゃあそこにしよう。それじゃあわたしは儀式の最終準備を進めてるから、時間稼ぎよろしくー」

「はっ!」


 ひらひらと手を振るドートルに、これ以上ないほど深くお辞儀しながら見送るグラウ。そのままの姿でドートルを見送ったグラウは、ふと自分の手が震えていることに気づいた。


「恐ろしい……あれが魔人様。なんど会っても震えが止まらない。心の奥底から尊敬の念が溢れてくる。あれこそが我々人類の目指すべき次のステージなのだ。それがわからぬ愚か者どもめ。しかし今日奴らは思い知ることになる。我々の力を。そして自分達の愚かしさを。そしてこの西大陸は魔人様の領土となるのだ」


 仄暗い笑みを浮かべるグラウ。

 彼は魔人こそが人類を支配する存在だと心の底から信じ切っている。

 そしてだからこそグラウは人類を導く新たな存在となるために自身が魔人となると決めているのだ。


「やってやる……やってやるぞ。私は人の世のみならず、魔人の世界でも上に立ってみせるぞ」


 誰よりも上に立ちたいという野心。普段はひた隠しにしているグラウの本心に垣間見えた瞬間だった。


「さぁ聖女共、いつでもかかってこい。私のさらなる飛躍のために!」


 揺るぎない野心を胸に、グラウはエルゼ達を迎え撃つ準備を進めるのだった。


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