第43話 焦る気持ち
三日。これはユースティアがいなくなってから経過した日数だった。
その間全くの音信不通。魔導通信機で連絡をしても無反応。ここまで条件が揃えばさすがにレイン達もユースティアの身に何かあったのだということに気づく。
いなくなった初日に戻ってこなかった時点で、レイン達も動き始めていたのだがいかんせん情報が何もないのだ。
目撃者もおらず、ユースティアがどこに行ったのかもわからない。そんな状態で探すことなどできるはずがなかった。
「ティア……」
レインとイリスも街に繰り出して有益な情報が無いかを探っているのだが、状況は芳しく無かった。
朝から食事をする手間も惜しんで探し続けていたレインだったが、結局この日も何一つ情報を得られなかった。
ユースティアに関する情報も、グラウに関する情報も。
そのことに苛立ちつつ、レインは情報を求めて次の街へと向かおうとする。
しかし、その前にイリスに腕を掴まれて止められる。
「待ってくださいレインさん」
「イリス……なんだよ」
「少し休憩しましょう」
「休憩? 大丈夫だ。まだ全然疲れてなんかない」
「いいえダメです。二日前からずっとろくに休んでもないじゃないですか。そんなんじゃユースティア様を見つけ出す前にレインさんが倒れちゃいますよ。今日はまだご飯も食べてないですし」
「そんな悠長なことしてる暇は」
「ない、とは言わせません。気付いてないのか、気付いてて無視してるのかわからないですけど、今のレインさん、相当顔色悪いです。お昼にしましょう」
「…………」
イリスの本音を言うならば、ずっと休んでいないレインのことを休ませたかった。しかし、それは他ならないレイン自身が認めないことは明白だった。
だからこそ妥協案としてイリスは食事を提案したのだ。そうでもしなければレインは絶対に休もうとしないから。
そんなイリスの意思を感じたレインは、焦り過ぎていた心を落ち着けるように深呼吸して、イリスの提案に頷いた。
「……そうだな。悪いイリス。ちょっと焦ってたみたいだ」
「いえ、無理もないです。こんなこと初めてなんですよね? だったらレインさんが焦るものもわかります。でも今は休憩しましょう。体調不良で倒れてしまったら元も子もないですから。それに他の方たちも探してくれてますし。そちらに進展があるかもしれません」
「そうだな。はぁ、何やってんだか」
「今はとにかく落ち着きましょう。私、何か買ってきますから。そこの椅子に座って待っててください」
「いや、それなら俺も買いに」
「ダ・メ・で・す。いいから大人しく座って待っててください。食べれないものはありますか?」
「いや、特には……」
「じゃあすぐに戻って来ますから。くれぐれも、大人しくしてください」
イリスに何度も念を押されて、レインは近くにあったベンチに座る。
そのままお昼を買いに行ったイリスの背を見送ってから、レインはため息をついて空を見上げる。
「情けねぇ……」
イリスに無理やり止められるほど、レインは無茶な行動をしていた。心ばかりが急いて、自身の体のことは何も考えていなかった。
今、レインの心はぐちゃぐちゃだった。色々なことがあり過ぎて、自分のなかで整理しきれていなかったのだ。
「焦れば焦るほど視野が狭くなる……か。そういえば昔あいつに言われたな」
緊急事態の時ほど焦らず、落ち着いて冷静に。レインが昔にユースティアから言われたことだ。焦りは心の余裕をなくし、心の余裕を無くせば視野が狭くなる。そうなれば見つけれるものも見つけられない。
そんな当たり前のことすらレインは忘れてしまっていたのだ。
「どこにいんだよ……ティア」
ユースティアと一緒にいるようになって十年。初めてのことだった。
ユースティアの身になにかあるなど考えたことも無かった。いや、考えないようにしていたのかもしれない。口でどんな風に言ったとしても、レインにとってそれだけユースティアとは絶対的な存在だったから。
しかしわかっていたことでもあった。ユースティアも完璧な存在ではない。何があってもおかしくはないと。
「……それでもティアのことだ。きっと無事だとは思うけど。あぁくそ! 見つかったら覚えてろ。文句言いまくってやるからな」
そんなことを考えていたら、サンドイッチを持ったイリスが小走りで戻って来た。
「お待たせしました」
「ずいぶん早かったな」
「先ほど歩いていた時にお店に目をつけていたので。どうぞ」
「あぁ、ありがとな」
「ゆっくり食べて、英気を養ってください。まずはそこからです」
「そうだな。心配させたみたいで悪い」
「今さらです。それに……私もレインさんの気持ちはわかりますから。でもきっと大丈夫です。だってあのユースティア様ですよ?」
「そうだな。俺もそう思うよ」
レインとイリスはそのまま休憩を兼ねてサンドイッチを食べる。
自分ではわかっていなかったのだが、相当腹が減っていたのか、一度食べ始めたら手が止まらなくなっていた。
イリスはそんなレインを見て安心したように笑みを浮かべる。この二日間、ほとんど何も食べていないレインのことをずっと心配していたのだ。
「次はまた隣街ですか?」
「あぁ、そうだな。エルゼ様とコロネ様がそれぞれ別の方向を調べてくれてるし、俺達はこのまままっすぐ次の街へ向かうのが良いと思う。あんまり遅くなるようだったらそこで宿をとってもいいってエルゼ様からは言われてるし」
「それじゃあもう少し休憩したら次の街へ——」
その時だった。レインがエルゼから連絡用として渡されていた魔導通信機が鳴る。
「はい、レインです」
『私です。緊急の連絡がありましたので』
「緊急……ですか。もしかして、ユースティア様のことで何かわかったんですか?」
『そうですね。正確にはこれから情報を入手するということになりますが。一度私の屋敷まで戻って来ていただけますか?』
「……はい。わかりました」
『では、また後ほど』
そう言ってエルゼは通信を切る。
「どうかしたんですか?」
「手がかりが見つかったらしい」
「っ! 本当ですか!」
「あぁ。急いで屋敷に戻るぞイリス!」
ようやく見つかったというユースティアに繋がる情報。
逸る気持ちを抑えて、レインとイリスはエルゼの屋敷へと急ぐのだった。
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