第27話 理由

 レインとエルゼは一番大きい建物を目指し隠密行動で少しずつ進んでいた。

 先に進むにつれて、徐々にい見張りの人数も増えてくる。

 建物間近配置されている警備の人数は見つからずに進むのは不可能なほどだった。


「リオルデルさん、ここから先は警備が増えているようですので私達に認識阻害の魔法をかけます」

「はい、わかりました」


 レインに向けて手を伸ばすエルゼ。エルゼの手から伸びた光がレインの体を包み込み、溶けるように消える。レイン自身に認識阻害の効果が実感できるものではないのだが、エルゼの魔法の優秀さはすでに身に染みている。


「効果時間は長くありませんので、一気に走り抜けます」


 一気に駆け出したエルゼの後に続いてレインも走る。警備の前を思いっきり横切ったというのに、警備は一瞬怪訝そうな顔をするだけだ。レイン達に気付く様子はまるでない。


(俺からしたら普通に横切ってるだけなんだけどな。認識阻害の魔法がしっかり働いてるってことか。すごいな、エルゼ様の魔法は)


 認識阻害に合わせて【消音魔法】も発動しているので、レイン達が走っても大きな音すらしない。

 そうしてあっという間にレイン達は建物の前へとたどり着いた。


「鍵は……当たり前ですがかかってますね。強引ですが、無理やり解錠させていただきます」


 認識阻害に合わせて【消音魔法】も発動しているので、レイン達が走っても大きな音すらしない。

 そうしてあっという間にレイン達は建物の前へとたどり着いた。


「鍵は……当たり前ですがかかってますね。強引ですが、無理やり解錠させていただきます」


 エルゼが指をパチンと鳴らすと、固く閉ざされていた扉が開かれる。そしてレイン達は建物の中へと侵入することに成功した。


(っていうか、俺ここまでほとんど役に立ってないな。まぁティアといる時も似たようなもんだけど。聖女は一人で全てをこなせる力がある。むしろエルゼ様一人の方が動きやすいんじゃないかって思うくらいなんだけど。なんでわざわざ俺を一緒に連れて来たんだ?)


 バランスだなんだと理由をつけてレインを連れて来たエルゼだが、エルゼほどの実力があれば一人でも何の問題もなく事を進めれたはずだ。

 最初から思っていたことだが、レインはエルゼが何か他の理由があってレインを連れて来たような気がしてならなかった。


「どうかしましたか?」

「いえ、なんでもありません。それにしても……この建物の中は人の気配がしませんね。外にあれだけいたんだから中にはもっと人がいるかと思ってたんですけど」

「……そうですね。何か仕掛けてある可能性もあります。気を付けて進みましょう」

「はい」


 しかし、そんなレインとエルゼの警戒に反して建物の中には罠一つなかった。

 

「ここが最奥になるわけですが……見事に罠がありませんでしたね。これが罠でないとしたならば、拍子抜けなのですが。ともあれ、入ります。準備はいいですかレインさん」

「いつでも大丈夫です」


 《紅蓮竜牙》を構え、突入のタイミングを計る。そして一息に部屋の中へと突入するレインとエルゼ。

 中に居たのは小太りの中年男性が一人だけだった。机に向かって書類仕事をしている。


「な、なんだ!?」


 急に部屋の扉が開いたことに驚いていたが、認識阻害の魔法の効果がまだ働いていたのかエルゼとレインに気付いた様子は無かった。


「魔法を解除していませんでしたね。解除します」


 エルゼがパチンと指を鳴らすと、エルゼとレインの魔法が解除される。

 部屋の中にいた男はエルゼの姿を見て、顔を真っ青にして腰を抜かしてしまう。


「ひっ、な、なぜ聖女がここに! 警備は何をしている!」

「残念ですが、私の魔法の前は普通の警備はあってないようなものです」

「くっ」


 男は悔し気に顔を歪めると、机の下に手を伸ばそうとする。しかし、それをエルゼが見逃すはずは無かった。


「動くことを許可はしていませんよ」

「っっ!? う、動かない!?」


 まるで氷ついたように動かなくなる男。必死に体を動かそうとしているが、その体はビクともしなかった。


「一つ質問をします。素直に本当のことを教えてください。私が嘘だと判断すればどうなるか……わかりますね」

「っ!」


 エルゼの視線に本気を感じ取ったのか、男の瞳に恐怖が混じる。


「まずは最初に質問です。あなたがこの魔人崇拝集団の長ですか」

「そ、そうだ」

「組織名を教えてください」

「我らの名は……『魔邪共乱』。魔人様を崇拝し、魔人様へと存在を昇華することを目的とした集団だ」

「『魔邪共乱』。聞いたことの無い名ですね」

「ほ、本当だ! 嘘は言っていない」

「……いいでしょう。嘘は言っていないようですね。であれば、あなたを捕縛させていただきます」

「くっ、そう簡単に捕まるわけには」

「その認識は誤りですね。あなたはすでに捕まっている」


 逃げ出そうと必死にもがく男だが、すでにエルゼに術中にハマっている。


「できれば手荒な真似はしたくないのです。あなたが魔人を崇拝する人であったとしても、あなたはまだ私の守るべき人なのですから。これ以上抵抗するのであれば、そうですね。骨の一本か二本は覚悟していただくことになります」

「わ、わかった! わかったから!」


 ギリギリと腕を締め上げられて、男が悲鳴を上げる。もし抵抗を止めなければエルゼは本当に男の腕を圧し折っただろう。


「ありがとうございます。では素直についてきてくださいますね」

「……あぁ。わかった。私はついてく。だからどうか他の者達は」

「えぇ。もちろんです。今回の私の目的はあなたの捕縛。後の他の方達も捕まえることにはなりますが……手荒な真似はしないと約束しましょう」

「く……」

「では、しばらくの間眠っていてください」


 エルゼが男に向けて手を向けると、まるで糸が切れたかのように男が崩れ落ちる。


「眠らせたんですか?」

「はい。途中で抵抗されても面倒なので。目的は達成しました。それでは戻るとしましょう」

「……結局何の手伝いもできませんでしたね」

「いえ、そんなことはありませんよ。我々聖女は強大な力を持っていますが、それは絶対ではありません。誰かがいるというのは大事なことなんですよ」

「……本当にそれだけですか?」

「どういうことでしょう」

「俺を選んだのには、何か他に理由があるんじゃないんですか?」

「……さすがに気付かれてしまいますか」

「エルゼ様はユースティア様と同じです。本来ならどんな任務も一人でこなせてしまう。俺なんている必要は無かったんですから」

「先ほど言った言葉に嘘はありませんでしたが。確かにあなたの言う通り、別の理由もあります。あなたを初めて見た時からずっと違和感がありました。そう、この感覚を私は……私達聖女はよく知っている」


 エルゼの全てを見透かすような瞳に、レインは心の奥底まで見られているような気がしてしまう。

 そしてエルゼは、決定的な一言を口にする。


「この任務の間、ずっとあなたの事を観察していました。そして気付いた……あなたの中には罪が刻まれている。深く、そう。とても深く。決して切り離せないほどに。あなたは……魔人ですね、リオルデルさん」

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