第24話 チーム分け
翌朝。疲労と痛みを訴える体と共にレインは目を覚ました。
「いつつ……ティアのやつ、遠慮なしにやりやがって」
昨夜のユースティアとの訓練でレインの体は限界まで痛めつけられていた。
もちろんユースティアはレインの能力の限界を見極めている。だからこそギリギリを狙っての訓練だったのだが、それでもレインにとってハードであったことに変わりはない。
結局土人形を十体同時に相手にできるようになるまでにかなりの時間がかかってしまった。
「でも、銃は扱えるようになったか。そう考えたら良かったのかもな」
厳しい訓練の成果か、レインは《紅蓮竜牙》をかなり扱えるようになっていた。
性能の把握もバッチリだ。
その結果わかったことは、《紅蓮・双牙》の時と比べて段違いに性能が上がっているということだった。
ルーナルが説明してくれたように、改善されていることは理解していたのだが、実際に使ってみればその差は如実に現れた。
銃の威力、弾速などなど改善された点は上げればきりがないほどだ。
《紅蓮竜牙》は《紅蓮・双牙》と完全に別物であるということをレインは理解した。
「これだけのものを一週間で仕上げるって、ルーナルさんってマジで天才なんだな」
進化した頼れる相棒を腰に付けたホルスターにしまってレインは朝の準備を終わらせる。
「うん、よし。服装は大丈夫だし、髪も大丈夫と。変な姿のまま出るとティアに怒られるからな」
姿見の前で最終チェックをしていると、部屋のドアがノックされた。
「はい」
「おはようございますリオルデル様。朝食の準備が整いましたので呼びにまいりました。それともお部屋までお持ちいたしますか?」
「いえ大丈夫です。すぐに行きます!」
「かしこまりました」
ドアの向こうから聞こえて来たのはメイドの声だった。
もしかしたらもうすでにユースティアやエルゼ達が待っているかもしれないと思ったレインは足早に食堂へと向かう。
食堂の前に立っていたメイドがレインの姿を見て食堂の扉を開ける。
するとその中には案の定と言うべきか、すでにレイン以外の全員が揃っていた。
「遅いですよレイン。あなたが最後ですよ」
「でもユースティア様も私が起こすまでぐっすりと——むぐっ」
「イリス。余計なことは言わなくて大丈夫です」
「すみません。俺だけ遅くなったみたいで」
誰のせいでこんなに疲れてると思ってんだ。と言いたくなる気持ちをグッと堪えてレインは素直に謝る。
なによりレインが遅れてしまったことは事実だからだ。
「気にすることはありませんよリオルデルさん。移動の疲れもあったのでしょうから。それに、何時までに集まらなければいけないとは言っていませんからね」
「いやぁ、でも意外ッスね。レイン君はもっと早起きするタイプだと思ってたッス。あたしなんか六時には目を覚ましたッスよ」
「メイドに起こしてもらったから、でしょう。それがなければあなたはいつもお昼過ぎまで寝ているではありませんか」
「うわわわわっ! ちょ、ちょっと姉様! そんなことばらさないでくださいよ! それに最近はちゃんと自分でも起きてるッスから! 今日は確かに起こしてもらったッスけど」
エルゼの容赦ない一言にコロネが顔を赤くして弁明する。
「聖女たるもの、自己管理は徹底しなければいけません。私達は人々の希望の象徴。情けない姿を見せてはならないのですから」
「うぅ、わかってるッスけどぉ」
「あなたもそう思いませんか、ユースティア」
「えぇ。そうですね。あなたの言う通りだと思います」
どの口で言ってんだ、とレインは内心思ったものの口には出さない。ただ表情には表れてしまっていたのか、一瞬ユースティアに睨まれる。
そんなユースティアに気づかないふりをしながら席に着くレイン。後で何か言われたとしても知らない。後のことは後で考える。それがレインのやり方だ。
そしてレインが席についたのを確認すると、昨夜と同様にメイド達がレイン達の朝食を持ってくる。
「それでは、食べながらにはなりますが今日の予定を確認しておきましょうか」
「そうですね」
「そちらが手に入れた情報をもとに、このカランダ王国内で魔人崇拝組織が大規模な儀式を企てているという情報を入手しました。こちらとしても魔人崇拝組織の動向は探っていたのですが、尻尾を掴めなかったというのが実情です。そんな中でそちらが入手した情報は私達にとってもかなり有益なものでした。情けない話ではありますが、この情報がなければ気付かなかった可能性すらあります」
「あのー、疑ってるわけじゃないんスけど、その情報って確かなものなんスか?」
「コロネ、その言い方は」
「いえ。コロネの言うことも最もです。彼女はミューラの能力を知らないわけですから」
「ミューラ……って、ハルバルト帝国の聖女様の一人ッスよね。その人が入手した情報なんスか?」
「はい。私が捕まえた『降魔救罪』のリーダー。ミューラが彼から入手したものです。そして、ミューラが入手したという時点でこの情報の信憑性は限りなく高くなります。彼女は情報のエキスパートですから」
「そうなんスか?」
「えぇ。詳しくは言えませんが、彼女の力は情報を聞き出すということに非常に長けているんです。彼女の手にかかれば、手に出来ない情報はないでしょう」
「はぇー、そういう聖女様もいるんスね」
「コロネ、あまり失礼なことを言わないでください。すみませんユースティア」
「いえ、気にしないでください。ある意味当然の疑問ですから。でも、ミューラの手にした情報の正確性については私が保証します。ですからこうしてこの国まで来ているわけですし」
「そうですね。私も彼女の情報取集能力は知っていますから。信用していますよ」
「あ、あたしも信じてるッスよ! 疑ってるわけじゃないって、言ったじゃないスか!」
「話が逸れました。ともかく、今日私達がするべきことは決まっています。さらなる情報収取です」
「? どうしてッスか? もう情報はあるんじゃ」
「ミューラが手に入れた情報は限られたものです。このカランダ王国内のどこに魔人崇拝組織が潜んでいるのか。それ自体は全く把握できていません。今日はその調査から始めます」
「うへぇ、ハルバルト帝国ほどじゃないッスけど、カランダ王国もめっちゃ広いですよぉ。どうやって探すんですかぁ」
「確かにコロネの言う通りですね。闇雲に探して見つかるようなものでもないと思いますけど。何か策はあるんですか?」
「もちろんです。事前にある程度絞りこんではありますので。ですが、チームは二つに分けます。私とコロネがわかれるのは当然として……ユースティア、リオルデルさんをお借りしてもいいですか?」
「……はい?」
「五人いるのであれば二対三に分かれるのが定石でしょう。四対一ではできることにも偏りができてしまいますから。イリスさんはまだあなたの傍付きになったばかりで、あなたの傍にいるべきであると判断しました。そしてそうなれば必然、動かせるのがリオルデルさんだけになるので」
「……いえ、ですが……」
ユースティアが戸惑いの表情を浮かべる。しかし、エルゼの言うことも最もなのだ。
戦力的に考えてユースティアとエルゼは別れた方が良い。そして、王国の案内役としてユースティアとコロネは必然的に一緒になる。そうなれば動かるのはレインかイリスだけ。
であればレインがエルゼに選ばれるのも当然と言えた。何かあった時に一人でも戦えるのはレインなのだから。
「そう……ですね。わかりました。レイン、今日は彼女と行動を共にするように」
「わ、わかりました……」
「では決まりですね。朝食後から動き始めることにしましょう」
こうして、ユースティア、イリス、コロネのチームとエルゼ、レインのチームに分かれて動くことになるのだった。
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