第15話 レインの新しい力
早朝、ルーナルに修理を依頼した《紅蓮・双牙》を受け取るためにレインはルーナルの屋敷へと足を運んでいた。
いつものように罠が仕掛けられていたらどうしようかと思っていたレインだったが、それはどうやら杞憂だったようで何事もなく屋敷の中に入ることができた。
「やぁレイン君。おはよう……ふぁ」
レインが屋敷の中へ入ると珍しくというべきか、ルーナルが出迎えてくれた。
かなり眠そうな様子で、目の下には誰がみてもわかるほどにはっきりと大きな隈ができていた。
「どうしたんですか? すごく眠そうですけど」
「眠そうじゃなくて眠いのさ。正直今すぐにでも横になって寝たいくらいさ。なんならこの場で一瞬で眠れるレベルだ。ちなみに、これは君のせいだということをしっかりと自覚しておいてくれ」
「え、俺のせいですか?」
「そうさ。私が寝不足に陥ったのは君の《紅蓮・双牙》を直していたからなんだよ。そのことをしっかりと理解してもらいたいね。本当なら一ヶ月以上は欲しい所を一週間で直したんだ。おかげで他の研究は滞ったし、こうして見事に寝不足になったわけさ」
「えーと……すみません」
「はぁ、いや。こちらこそすまない。寝不足で少しイライラしていたのかもしれない。そのぶんユースティアからはそれなりにまとまった金を受け取ったからね。それも合わせればマイナスはない。あれだけの金があれば今までできなかった実験もできそうだしね」
一体いくらもらったんですか、とは聞けない。ユースティアに関することは大抵把握しているレインだが、ユースティアからルーナルに支払われるお金だけはユースティア自身が自分で行っているためどれほどのお金が動いているのかわからないのだ。
「そうだね。帝都の貴族が数年は暮らせるんじゃないかってレベルの金額だよ」
「聞いてないのに言わないでください」
「気になるっていう表情をしてたじゃないか」
「それでも世の中には知らない方がいいこともあるんです」
「なるほど。まぁ賢明だね。なんて悠長に話してる暇もないか。私も眠いしね」
本当に眠たいのか目をゴシゴシとこすり、頬をぺちぺちと叩いてルーナルは自分の目を覚まさせている。
そして取り出したのはレインの専用武器である《紅蓮・双牙》。しかし、その形状が少しだけ変化していることにレインは気付いた。
「気づいたかい? 前にも言った気がするんだけど、それに刻んであった魔導回路がものの見事に焼き切れていてね。それはつまり、君の力に銃が耐え切れなかったということだ。発明家として、使用者よりも早く壊れる武器なんて認められないからね。魔術回路から何から、全部作り直すことにしたんだ。レイン君の成長に合わせてね。もはや以前のものとは別物と言ってもいい。だから《紅蓮・双牙》と呼ぶのは正しくないかもしれない。そうだね。言うなれば……《紅蓮竜牙》とでも呼ぶべきかな」
「《紅蓮竜牙》……ですか」
「ごく稀に魔物がこの世に残す素材。《憤怒》から生まれる魔物の中でも稀少な竜の魔物。その素材を使ったんだ。我ながら素晴らしい出来さ。罪から生まれる魔物の素材を使っただけあって、『罪弾』を使うこの銃との親和性は十分。威力、弾速、何もかもが向上している。魔術回路も一新したことで新しい術式を組み込むこともできた」
話しているうちに興が乗って来たのか、ルーナルは自慢気に修理した……というよりも、作り直した《紅蓮竜牙》について語りだす。
「以前までは魔術回路に〈威力向上〉と〈弾速上昇〉の術式を組み込んでいたんだけどね。竜の素材を使ったことでその必要もなくなった。それにそもそも、『罪弾』の威力が高いからね。今回からは変わりに別の術式を組み込んだ。〈精度向上〉と〈容量増加〉。他にも色々と組み込んであるけど、この二つは相当便利なはずさ。この術式さえあれば、たとえ僅かな隙間であっても射貫くことができる。そして〈容量上昇〉したことで、君がどれだけ罪の力を注ぎ込んでも耐えれるようにした」
「えーと……とにかく、使いやすくなったってことでいいですか?」
「使いやすくなった程度の話じゃないさ。といっても、実際に使うまでは実感できないだろうね。ただ一つ難点を上げるとするならば、以前まではつけていた鎮圧モードをなくした。完全に魔人や魔物と戦うことに特化させている。人に向けて撃つときはくれぐれも注意することだね。足や腕を狙うといい。〈精度向上〉を組み込んであるから、それも難しくはないだろう」
「あれ結構便利だったんですけどね……」
「そこはもう銃に頼らずやってもらうしかない。最近の状況を鑑みるに、余剰な力を組み込んでいる余裕はないと判断した。この銃であれば、魔人とだっていい勝負ができるはずさ。もちろん、使い手の腕次第だけどね」
どれほど銃が高性能であっても、担い手が未熟であれば意味がない。ユースティアの持つ【
使う者が有能であって初めて武器はその真価を発揮する。
「レイン君がこの銃に見合うだけの使い手だと信じて託そう。頑張ってくれたまえよ」
「……はい! 頑張ります!」
「いい返事だ。今日カランダ王国に行くんだろう?」
「このあと出発する予定です。だからこんなに朝早くからお邪魔することになってしまって。すみません、俺達の都合で」
「いやいいさ。さっきまで作業していたしね。これから死んだように眠る予定だったから、ちょうど良かったとも言える」
「そう言っていただけるとありがたいです」
「しばらくはカランダ王国に?」
「そう……ですね。そうなるかもしれないですけど、まだわかりません。ユースティア様から詳しい仕事の内容は聞いてないので。ざっくりとは言われたんですけど、期間まではなんとも。もしかしたら早いかもしれないですし、何日もいることになるかもしれません」
「忙しいものだね、君達も。まぁでもちょうどいい。その間に私はもっと高性能な魔導人形を作りあげるとしよう。今度こそユースティアに一泡吹かせてみせるさ」
「まだ諦めてないんですね」
「もちろんさ。聖女を超える道具の作成。それこそが私の目標なんだからね。私の作った魔導人形でユースティアを超える。いつまでも聖女に頼って、聖女がいなければ魔人に対抗することができない。そんなのは情けないじゃあないか」
「ルーナルさん……」
「……ふむ、ちょっと柄にもないことを言ったね。私はただユースティアを超えたいだけさ。私の発明でね。君からすればユースティアを超えるという私の発言は看過できるものじゃないかな?」
「いえ、そんなことはないですよ。むしろ応援します」
「へぇ、応援してくれるのか」
「ルーナルさんが本気だってわかりましたから。だからまずはこの《紅蓮竜牙》が素晴らしいものなんだってことを、俺が実戦で証明してみせます。できるかどうかは……怪しいですけど」
「ふふ、期待しているよ。さて、話しこみすぎたね。そろそろ私も本気で眠い。君もユースティアとイリス君が待っているんだろう」
「あ、確かに。すみません、話しこんで。それじゃあ、ありがとうございました!」
「ん、行って来たまえ」
レインが走り去って行くのをルーナルは見送る。
そしてレインの姿が見えなくなった後、ポツリと呟いた。
「そうさ。いつまでも聖女には頼れない。彼女達は……いや、今考えることでもないか。ふあぁ……さぁ寝るか。起きたら次は何の実験をしようかな」
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