Deep-film one.-

男は真っ暗な部屋に横たわっていた。

何度叫んでも返答がない。

息切れした彼は、真っ暗闇の空間に男は自分の人生と照らし合わせていた。

何も見えない未来。

何度助けを求めても結局は自分自身の人生。

幾ら信頼していた友人でさえ自分の事で精一杯の人生。

心の奥ではより良い人生を望んでいるはずなのに

現実で起きる事は、いつも自分にとって自分を苦しめる事ばかり。


もしかしたらこの空間よりも、自分の人生よりも

地獄の方が明るいのかもしれない。


男は自然と溢れた涙に、体を起こし右手で溢れ出す涙を拭きとろうとした時だった。

右手に何か硬い物が当たった。

手探りでその何かの正体を探る。


その正体は、カメラだとすぐに気づいた。

何故こんな所にカメラが?

その疑問と同時にある人物の言葉が脳裏に蘇った。


「写真って物は不思議なもので、カメラを向けると人は何故か笑顔になる。僕にとっては写真なんてものはなのに・・・。」


友人の言葉だ。


彼はいつもシャッターを切る時に哀しそうな表情を浮かべた。

その理由を聞くと、友人はカメラを見つめてこう言った。


「どんなに綺麗な景色も、素晴らしい笑顔も。必ずシャッターを切る時に一瞬暗くなるだろう?それってさ。その瞬間瞬間を閉じ込めてるのに。」

凄い事じゃないか?それって。

「あぁ凄い事だけどさ。カメラを向けると皆幸せそうに笑顔になる。でもなんだか同時に寂しさが込み上げてくるんだ」

ハハ、変わってんな。

「もしもこの先哀しい事が起きて。この笑顔の写真を見て。俺達はどう思うのかな?」

そりゃあ懐かしむだろ?

「そうかな?そんなものなのかな?」

そんな物だろ?お前はどう思うんだ?

「俺か?俺はな・・・。」


男は、手に取ったカメラの電源を入れて

撮影された写真をスライドしていく。


多くの自分達が過ごした日々、沢山の笑顔。懐かしい景色に場所が映っていて。

またも自然と流れ出す涙。

懐かしむだろう?懐かしむ。けれど何だろうこの感情は?

男は、友人に問いかけた時の写真に辿り付いた。


そこには、自分と当時付き合っていた彼女が照れくさそうに笑っている写真。


それを見て込み上げてくる何か。

深い深い心の奥の何かが体中を駆け巡り込み上げてくる。


社会に出て我武者羅に自分を認めて貰おうと駆け抜け

無理して病んで、精神ズタボロになっても

また時間が経ってやってくる朝。

ただ欲しい物の為にお金を稼ごうと、プライベートも削って

仕事に没頭すれば、恋人と会う頻度も少なくなって

愛想尽かされ、一人になって。

それでも我武者羅に頑張ってたはずなのに、

どんどん友人は結婚して幸せになって

守るモノが出来てまた一人取り残され。


なんだよ。何がカメラを向けると自然と笑顔になるだよ。

この写真に辿りつくまでに映ってた俺の写真。

無茶苦茶人相悪いじゃん。


右腕で目を擦り涙を再び拭き取り

カメラのフラッシュ設定をONにして

自分に向けカメラを向ける。


そしてシャッターを切る。


きっとこの瞬間も、過去の自分を閉じ込めてしまったのだろう。

再びカメラに収めた写真を確認しようとした瞬間だった。


真っ暗だった部屋に明かりがついた。

余りの眩しさに瞳を閉じゆっくり瞼を開くと、扉の向こうに立っていたのは

先程思い出していた友人。


友人は微笑みながら唖然としている自分に拍手を送る。

何が起きているのかわからない自分に友人は手に持っていたビデオカメラで

収めたある動画を再生し始め口を開いた。


「カメラと言うモノは、どうして過去しか残さないのだろうな」

ビデオカメラから再生される叫び声が、すぐに自分の物だと気づき問いかけた。


目的はなんだ!?何故俺を閉じ込めた!?


すると友人はビデオカメラで再生されている真っ暗闇の動画を見つめ

あの頃と同じ様に哀しい表情を浮かべた。


「美しい物ばかり収めてきたら、それを振り返ると哀しくなってきてな。だからどうせ撮るならもっと満足出来る物が撮りたくなったんだ。」


・・・だからって。監禁して。下手すりゃ犯罪だぞ!?


「君だって味わえただろ?過去を閉ざし未来を切り開く為の一歩を。」


何故だろうか。その言葉に説得されている自分がいた。

あの笑顔を思い出そうと写真を撮った瞬間。

何処か心地よい気分になったのは確かだった。


「これは偉大なる実験だ。多くの苦しむ人を救えるかもしれない。」


確かにそうかも知れない。でもやり方は間違ってる。

言葉に出そうとしたが、友人は続けた。


「この空間で何を想い、何を欲した?お金か?過去か?それとも新しい自分か?心の奥の自分は何を欲した?」


綺麗事だ。


「だが、君は最後は笑った。」


何も言い返せなかった。やり方は間違っているが何処か救われた気がした。


「二人でまず回りの皆を助けよう。」

友人の差し出した手に反射的に手を伸ばした。


心の奥の気持ちは、いつも。

誰かに救われるのを待っている僕にとって

その手は、例え真っ暗闇だとしても

何故かその瞬間だけ眩いフラッシュの光の様に思えたのだ。


一瞬の希望が、直ぐにその想いを閉じ込めるとも

知らずに。

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短編小説集-この世ノ御伽- ウキイヨ @ukiyo112

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