7.詰問

 翌日、僕は朝一番でうちに来た叔父を迎え入れ、兄貴の帰宅を待った。

 現れた兄貴は、叔父を見て、ひどく動転していた。

 僕は兄貴に詰め寄る。


「それで? 実印と権利書は?」


 兄貴は、無言で実印をポケットからとりだした。


「権利書は?」

「だ、だから、し、知らないよ……持ち出したのは実印だけだもの」

「そもそも、なんで実印を持ち出したんだ?」


 たぶん、金絡みだろうと予想していた。

 ただ、兄貴に、そんなツテがあるのかは、わからなかった。

 しかし問い詰めると、兄貴は予想外の答えを返してきた。


「……守ろうと思った」

「守ろう、と?」

「い、家を売ってしまわないように」


 売却を阻止? 兄貴が?


「なんで? 俺に売るなってこと?」

「わからない」

「わからないって……あのな、兄貴……ここの家、俺らじゃ維持できないから、将来のために、売って金に変えるの。わかる?」

「わかる」

「何で印鑑持ち出したの?」

「う、売るのとめるのっ!」


 追い詰められた獣が、差し伸べた手に噛み付きでもしようかというような勢いで、兄貴は唸って僕らを威嚇した。 


「なあ勝、実印が帰って来たのだから良しとしようじゃないか」


 叔父がそう言うと、兄貴は叔父を睨みつけた。叔父がわずかに嫌悪感を顕にした。

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