5.失物

 帰宅後、僕は中途半端なままにしていた、浅場家の資産整理を始めた。

 資産は、細々としたものが後から後からでてくるので、ちょっと面倒でもあった。

 たとえばある通帳は、ここ半年ほどの間に支払い者不明の入金が何度かあった。それは小さな額ではあるのだけれど、いちおう何の入金なのか確かめなければならない。

 金額の大きなもののうち、預貯金はすでに統合済みだ。

 使わないものは売り払って、そうでないものは兄貴に相談しつつ分け合うつもりでいた。

 そうして、少なからず兄貴の資産づくりをしてあげて、どうにか手のかからないようにしたいと考えていた。

 僕は、目録をみながらあれこれと考えつつ、重い仏壇をうごかし、その下にある平たい箱を取り出した。そこに、通帳や自宅の権利書といった、書類証文一式が収まっている。

 はずだった。

 しかし、そこにあるはずのものが無くなっていた。

 土地建物の権利書と実印だけが、どう探しても無いのだ。

 僕は考えを巡らす。権利書と実印がここにしまってある事を知っているのは、兄貴くらいしかいない。

 であれば、持ち出したのは兄貴か?

 僕はすぐさま、通帳や有価証券を元の仏壇の下に収めると、厳重に戸締まりをして家を出た。

 向かうのは、歩いて五分のところにある、昭和に取り残されたような木造アパート。

 兄貴外の住人のほとんどは高齢者だ。

 大家さんが、古くから両親の知り合いで、兄貴との面識も、症状への理解もあったから、よかろうということで、一部屋借りたのだ。

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