五十話
一筋の光が見える。
その光がどんどん近づいてくる。
その光に飛び込む。
周りは光に包まれ、そして地上の景色が広がる。
岩と砂と崖しかないがここは紛れもなく地上だ。
そう、私たちはあの道を抜け、地上へと脱出したのだ。
私たちが脱出したと同時に、出口は崩れ落ち塞がってしまった。
どうやら間一髪間にあったようだ。
「里長!王子!ご無事ですか!」
そういって駆け寄ってきたのは、ゼルグラード族長だ。
どうやら外の一族、いや金の剣の一族といったほうが正確だろうか。
その一族全員が地上で待っていた。
「お迎え感謝します。」と里長は族長に感謝を述べた。
言い方からして里長は迎えが来ていることを知っていたようだ。
「いえいえ、これも我ら一族のため。
それよりも、あまり無事な状態とはいえなさそうですねぇ。」
と族長は私たちを見て言った。
まあ、二人ほど動けないから大丈夫とは言えないだろう。
「ご心配なく、治療の用意をします。」と族長はいった。
「よろしく頼む。」と私が言うと、族長はうなずいてどこかへ駆けて行った。
その直後、間もなく「おーやぶーん」と、どこか遠くから聞こえてきた。
声の聞こえた方向を見るとあのヘルの子分二人が
ヘルを探しているのが見えた。
「お前たち、無事だったか!」とヘルは声を張り上げた。
その声を聞いた子分たちは嬉しそうにこちらに走ってきた。
だが、子分たちはアガネスがヘルを担いでいるのを見ると、
「おい!おまえ、親分をこちらに渡せ!」と大柄な男が
「親分に変なことしてないだろうな!」と小柄な男は言い放った。
「何もする気はないし、もとよりそのつもりだ。」
とアガネスはヘルを地面に下ろし、その場から離れた。
子分たちはすぐさま駆け寄り、
「大丈夫で!」「なにもされてやしませんか!」などと心配した言葉をかけた。
「心配するな。ちょっとけがはしたが大丈夫だ。
それより、お前らこそ無事だったんだな。」とヘルは安堵した表情で言った。
「へい、あの迷路で迷ってたんすけど、急に壁が崩れたかと思うと、
地鳴りがしだして。」
「ほんで、天井まで崩れてきたんで、仕方なく引き返したんです。
本当は親分を追いたかったんですが。」
と子分は交互に話し、
「「きっと大丈夫だと信じてやした!」」
最後は同時にそう言った。
「そうか。まあなんであれ、こうしてまた会えてて嬉しいぜ。
さあ、帰るか!」とヘルが言うと、
「あいさ!」「合点で!」と子分は答えた。
そして、ヘルは子分たちに担がれて、この場から去っていった。
ヘルたちを見送った後、その場にフリーを下ろした。
フリーは今だ意識が薄いが、先ほどよりは顔色がよくなっている気がする。
私はそうフリーの状態を確認した後、
ふぅーと言いつつ、里長から借りたグローブ状の誘導具を外した。
その途端、体の力が一気に抜けドサリと地面にあおむけで倒れた。
どうにか動かそうと力を込めてもピクリとも動かない。
「大丈夫ですか王子!」とアガネスが駆け寄ってくる。
それを見た里長が近寄ってきて、
「身体強化の副作用ですね。効果が強い分負担も大きい。でもご心配なく。
しばらくすれば、動けるようになりますよ」と言った。
しばらくってどのくらいなんだ、と私は思いながら、空を見上げた。
済んだ青い空だった。
誘導があろうとなかろうと、この空は変わらず、世界は美しいな。と私は感じた。
未来はあの夢のような、自然豊かな世界になってほしいものだ。
そういえば、あの夢の最後の声。私の声でもアガネスの声でもなかった。だが、
「どこかで聞いたことがあるような……」
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