四十二話

里長は歩きながらこう話しだした。


「先ほどの対応は致し方ないことでして。

近頃、誘導をめぐっての争いが絶えないと聞いておりましたから。

そのせいで、外の一族に被害者が出たとも。

ああ、外の一族というのは彼らです。」


そういって、族長の手紙を私たちに見せた。


「私たちゼルグラード族はここにいるものを内の一族、

そして彼らを外の一族と呼んでいます。」


「ここの人たちもゼルグラード族?」


フリーがそう聞く。


「そうです。もともと一つの一族が、ここを見張る者と外で活動する者とに

分かれました。目的はここを守るためと一緒ですがね。」


里長はそう答えた。


「話を戻しましょうか。

外の一族に被害者が出たことは私たちにも伝えられました。

そして、ここも狙われる可能性あると彼らは言いました。

ですから、警備を強化し、何であっても注意しなくてはならなかったのです。

あなた方はここまで来たのですからご存じでしょうが、

あの誘導装置からビームが出るよう改造もしました。」


あれはこの者たちが作ったのか、

だから他の仕掛けとちがって殺傷能力があったのか。


「もともとは監視装置で、ここに来る者を先んじて

確認するだけの物だったのですが、致し方なく。

その代わり、壁を追加して、簡単に引き返せるようにしたり、

万一当たってもいいよう、急所は外すようにしたり、

ビームに睡眠効果をつけて、当たったものはその場で眠らせ

後で我々が安全に回収し、外へ返せるようにしたりと工夫はしました。」


あのビームに催眠効果なんて付いていたのか。


だから当たったアガネスは致命傷でもないのに具合が悪そうだったのか。


しかし、アガネスはそれに耐えたのか。


私はアガネスのタフさに感心し、アガネスの方を見た。


急に見られたアガネスは疑問符を浮かべていた。


「そうでした!あなたはビームを受けていましたね。後で治療いたします!」


里長は私の行動で思い出したかのようにそう言った。


「しかし、よかったです。あなた方が賊のようなものではなくて。

正直、あの装置を突破するような人たちに我々がかなうわけがありませんから。」


一人、そのようなものがいるがな。とヘルを見る。


見られたヘルはフンとそっぽを向いた。


ついでにフリーも見ておこう。


フリーは辺りをきょろきょろと興味深々で見回って、

「すごい!」とか「どうなってるのかなー」とかつぶやいている。


この里の町並みは至って普通の石造りの家々が建ち並んでいて、

道の脇には街灯がところどころあり、辺りを照らしている。


しかし、家の中は見たこともない道具や装置が並んでいる。


たまにすれ違う人の中には、空中に浮いている板に物を乗せ運んだり、

それに自ら乗り移動している人もいる。


どうやら、誘導具の技術は私たちの国よりはるかに進んでいるようだ。


「着きましたよ。」と里長が言った。


そうこうしているうちに、会場に着いたようだ。


そこは広場になっており、正面に大きな天使像が建っている。

あの翼のない天使だ。高さは2.5mといったところだろうか。


その左右には地底湖へ下る道が続いてる。


広場は半円のような形をしており、いくつもの道が放射状につながっている。


その道の一つから私たちはこの広場に出たということだ。


広場には椅子や机が運びこまれ、並べられている最中だった。


「いま、歓迎と治療の準備をしますので。

そのテーブルにでもお付きになってお待ちください。」


そういって里長はすでに設置済みの席を指した後、

駆け足で来た道を戻っていった。

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