三十八話
私はハアハアと息を切らす。
「や、やったー!」とフリー。
アガネスはまた片膝をついてしゃがんだ。
「おい、お前ら大丈夫か!」
そういいながら、ヘルが駆け寄ってきた。
そういえばお前もいたな。と、私は完全にヘルの存在を忘れていた。
「アガネス、大丈夫?早く手当しないと。
私あんまり治癒するのって得意じゃないけど。」
フリーはそういい、しゃがんだままのアガネスの肩の鎧を脱がると、
負傷した肩に手を当てた。
「大丈夫です。この程度慣れています。」とアガネスは言うが、顔色が悪い。
ビームは誘導の力を使っていた。
ただ負傷させるだけではないのかもしれない。
「すまないアガネス。無理をさせてしまった。」
私はそんなアガネスに謝った。
「そうだよ!止めるのは、アガネスを治療してからでも
よかったんじゃない!」
とフリーが横からそう私を非難した。
フリーの言ったことはもっともだ。
私はもっと周りを見なくてはと感じた。
「そうだ。アガネスって言ったか。お前なんで俺なんか助けた。」
そんな中、ヘルはアガネスにそう尋ねた。
その問いに対し、アガネスは淡々としかし、決意に満ちたような声でこう答えた。
「王子が、人々を助けたいとおっしゃった。
この国のみならず全ての人を助けたいとおっしゃった。
その身を犠牲にしたとしても助けたいと。
だから、私は王子の望むことをしたまで。
たとえ、敵であるお前であっても、私は助ける。」
王子に仇なさなければな、とアガネスは最後に付け加えた。
ヘルはフン!と鼻を鳴らしなんだか納得いかない様子だ。
そして私の方に目を向けこういった。
「お前が王子だったとはな。じじいのとこで会うまで知らなかったぜ。
誘導をどうこうしてやると考えているやつは
国にこっぴどくやられたやつだと思っていたが。
ま、何であれ、助けてもらったのは事実だ。
借りをつくったままじゃ俺の気が済まねえ。」
ヘルはアガネスに近づき、「ほら、貸してみな。」といい、
手当に当たっていたフリーをどかせ、アガネスの傷を見ると、
腰のポーチから道具をいろいろ取り出した。
そして、慣れた手つきで手当に当たった。
「おら、これ飲んどけ。痛み止めだ。多少は楽になる。」
アガネスは半信半疑の様子でもらった液状の薬を飲みほした。
ヘルが使っているのは薬草の類だろう。
誘導具での治療が一般的な今でも、薬は使われ続けている。
しばらくして、処置が終わったのか、
「これで、応急的だが手当はした。
本格的な治療は隠れ里にでもついてからしてもらえ。」
とヘルはいい、道具を片付け始めた。
「ありがとう。」
そうアガネスは告げた。
道具を片付け終えたヘルは
「ふん、これで貸し借りなしだ。」
と言いながら立ち上がり腕を組んで、そっぽを向いた。
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