三十七話

声の主はヘルだった。


どうやったのかわからないが、どうやらここまで追ってきたらしい。


そして今、この空間にたどり着き、球体に見つかり撃たれた。


人影がグラっと揺れる。


「ぐっ……」と声がした。


しかし、それはヘルではなく――


「アガネス!!!」


私は叫んだ。そう撃たれたのはアガネスだった。


いや、被弾したのはというべきか。


ビームは間違いなくヘルを狙って撃たれていた。


そして、そのビームがヘルに当たるよりも前にアガネスが前に出て、受け止めた。


槍をガランと床に落とし、アガネスは片膝を尽き、左肩を右手で抑えている。


どうやら、左の肩を打ち抜かれたようだ。


ヘルに当たった様子がないことから、後ろまで貫通はしていないようだ。


「おい、お前!なんで!」とヘルは驚きながらアガネスに声をかけている。


しかし、あのビームはアガネスの鎧を貫くほどの威力があるようだ。


アガネスとは言え、負傷した状態では集中力も鈍る。


誘導武器を使っての移動も困難だ。


そうこうしないうちに、球体がまた高速で回転し始める。


「逃げろ!」


アガネスのそんな叫びが聞こえる。


そして、間もなく次弾が発射された。


確実に次弾はアガネスの心臓を貫くだろう。


もうどうにもならない。


しかし、どうにかしなければアガネスが死んでしまう。


そう思った瞬間、私はアガネスの前に立ち

キイイイイイン

ビームを受け止めていた。


私の剣の刃で。


ビームは吸収されるかのように刃に吸い込まれていった。


その刃は白金に輝いていた。


この剣は私が趣味の鋳造の一環で作ったものだ。


殺傷力は考えず、造形美にこだわり、少し湾曲した形をした、独特な剣だ。


原料は普通の鋼と誘導鉱石を少し混ぜただけのごく一般的なもので、

完成した時は普通の剣だった。


しかし今は白金に輝き、ビームさえ受け止められる。


いったいどうなっているんだ。


「王子!ご無事でしょうか!」


アガネスが後ろから叫ぶ。


「大丈夫だアガネス!なんだかよくわからないが大丈夫だ。」


私はそう返す。


「王子!次、くるよ!」


フリーがそう勧告してくる。


フリーの言う通り、球体からビームが発射される。


私はそれをさっきと同じように剣で受け止める。


今度もビームは刃に吸収された。


「すごい!どうなってるの!」


フリーが興奮したようすで叫ぶ。


「わからない!しかし、これで突破できそうだ!」


私は二人に作戦を話した。


まずあのオブジェに近づく。


それまで私がこの剣でビームを受け止める。


近づいたらフリーはあの球体の誘導の力の制御を行い、動きを止める。


止まったら、アガネスが槍で叩き壊す。


単純かつ効果的な方法だ。


私のこの作戦に二人は二つ返事で応じた。


「よし!いくぞ!」


私の掛け声とともに、二人も動き出す。


ビームを受け止める私を先頭に、フリー、アガネスと続く。


「ここでいけるわ!」


フリーはそういい、両手を前に出した。


球体の回転がおかしな動きになる。


ビームも止んだ。どうやら制御下に置いたようだ。


「アガネス!頼んだ!」


「お任せを!」


アガネスは青い粒子をまとった槍を右腕のみで振るい、

そのオブジェの円柱の部分を切った。


円柱は切り倒され、台座を失った球体は落下し、地面にコロコロと転がった。


「やったか!?」


私はそう叫んだ。


オブジェは完全に機能停止したようだ。

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