三十三話

私たちは長く暗い洞窟を明かりを照らしながら進む。


明かりは族長からランタンを借りた。

油に火をつけるもので、今となっては骨董品だ。


洞窟の道は入り口から少し進むと下り坂になっていた。


奥へ行くほどだんだんと道幅が増え、人二人が並んで歩けるほどになった。


そのまま進んでいると、壁に突き当たった。


「と、行き止まりか。」


私は目の前の壁を見上げた。


ここまでずっと下り坂だったので、

天井は進んでいくにつれどんどん上がっていき、今では見えなくなっていた。


「えー、でもここまで一本道だったよ?」と、フリーが言う。


そう、ここまで分かれ道などなかった。


それどころか罠もなかった。族長の言葉は嘘だったのだろうか。


それともただ見逃しただけだろうか。


こんな時フリーの能力が使えれば便利なんだが。


「フリー、まだ探知は使えない感じか?」


「うーん、無理ね。それにどんどん濃度が濃くなっているわ。」


そう、フリーはこの洞窟に入ってから探知の能力が使えなくなっていた。


根源が近いからか周りの誘導の濃度が濃く、物体が正確に把握できないらしい。


「どうする。戻ってみるか?」


私はそう提案した。


フリーは、どうにか探知をしようと目を閉じて、聞いてもいない様子だ。


なぜかアガネスも同様に目を閉じている。こちらも聞こえていないようだ。


「おーい、二人とも?」


私は二人に呼びかける。


「水のにおいがします。」


アガネスが突然そんなことを言い出した。


「水?」


私はそう返す。


「はい、水です。」


アガネスはそういい、地面に手を当てる。


「この地面の下に水がたまっている感覚がします。それと――」


アガネスは横の壁に耳をつける。


「壁から水の流れる音がします。」


「それがどうかしたのか?」


ここは山脈の洞窟の中だ。地下水があってもおかしくはない。


「お二人とも、下がってください。」


そういうとアガネスは私とフリーを下がらせ、正面の壁の前に立った。


「ふん!!!」


ズドン!

アガネスは槍を横の壁に突き刺した。


すると、突き刺した穴から勢いよく水が噴き出してきた。


「おお!アガネス、これはいったい?」


私はそう尋ねる。


「私の予想が正しければ……。王子、しばらくお待ちください。」


アガネスはそういい、私たちの方へと後ずさりする。


しばらくすると、ゴゴゴゴゴゴという地鳴りと共に地面が上がり始めた。


「な、なにこれー!」


フリーが驚いて、ビョンビョン跳ねている。


「アガネス、説明してくれないか。」


私は改めて、アガネスに尋ねた。


「失礼しました王子。あっているか、不安だったもので。

先ほど申し上げた通り、この洞窟付近には水が通っておりました。

王子は先ほど族長が、ここの人々とは特定の時期にしか会わない、

とおっしゃていたのを覚えていますか?」


私はうなずく。


「では続けます。族長は次に会うのは2か月後だとおっしゃっていました。

その時期はこの辺りでの大雨季が終わりを迎える時期です。

つまり、ここの地下水の量が増えるわけです。

水の量が増えると水圧も上がります。

そして、水圧が上がるとこの横の壁が圧に耐えられなくなり亀裂から水が

この洞窟に流れ込むと、そういう仕組みになっているようです。」


そういい、アガネスは横の壁を手でなでる。


確かにそこには亀裂のような跡があった。


しかし、説明されてもいまいちピンとこない。


フリーにはチンプンカンプンだったようで、途中で聞くのをやめたらしい。


そんな私たちを見かねてか、

「時期によってこの洞窟の通路は上下するということです。」

とアガネスは付け加えた。


そうこうしているうちに、地面の上昇は終わり、

壁だった正面には新たな洞窟が続いていた。


なるほど、よくできている。

おおよその人ならあの行き止まりで、あきらめて引き返すだろう。


ここまで罠がなかったのもそれが理由かもしれない。

無駄な殺生は好まないということだろう。


しかし、ここから先はどうなっているかわからない。


私達は顔を見合わせ、それからさらに奥へと進んだ。

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