三十二話
「ついたぞ、ここだ。」
族長はそう言って馬を止めた。
銀の翼の一族の里まで案内してもらうことになってから
私たちと族長、それと数人のお付きは集落を出発して二日ほど馬に乗り続け、
やっと目的地にたどりついた。
「ここって、特に何も見当たらないですが。」
私は族長にそう尋ねる。
ここは、山脈のふもとのようだ。
頭上に少し雪のかぶった山々が見える。
周りは切り立った崖と、多少の草木以外は何も見当たらない。
まして、集落のある痕跡などみじんもない。
「隠れ里だからな。ほらこっちだ。」
そういって、族長は近くの岩肌が露出している、崖に近づいていく。
「ここにある岩の切れ目がわかるかい。」
「はい。」
族長の指さす方向に、人ひとり入れるかどうかぐらいの小さな穴が開いていた。
「この中だ。」
「え、この小さそうな洞窟の中ですか!?」
「そうだ。入り口は小さいが、中はとても巨大だ。
と言っても実際どれほどなのかは知らないがね。」
「そうなのですか。」
私はそういいつつ、中をのぞく。
暗くてよくは見えないがこの洞窟は長々と奥へ続いているようだった。
「それじゃ、あとは君たちで行ってくれ。」
族長はそう言って、私の肩をポンと叩いた。
「え!案内してくれるんじゃないんですか。」
私はおどろいた。てっきり、最後まで付いて来てくれるものだと思っていた。
「そうしたいのはやまやまなんだが、私も入ったことはなくてね。
いつもは彼らがこの入り口まで出向いてくれるんだ。
洞窟の中では、取れるものも限られてくるだろ。
だから決まった時期に会う約束をして、物品の交換を行うんだ。
お互いの生存確認も含めてね。
そして、その時期以外は会わないんだ。」
「そうなのですか。何か彼らに知らせる方法はないのですか。」
「ない。だから君たちを案内できるのはここまでなんだ。
力不足ですまないね。」
族長は頭に手をまわし、申し訳なさそうな顔をする。
「次に会うのはいつなんでしょうか。」
アガネスがそう、族長に尋ねる。
「2か月後だね。それまで待つかい?」
族長のその提案に対し、アガネスは私の方を見る。
ああ、私に決めろということか。
どうしたものか。私がそう考えこんでいると、
「ここまで来たんだし、行こうよ!」
フリーがそう言った。
「フリー、いいのかお前。」
「何が?せっかくここまで来たんだし、また来るのも大変でしょ?
それに2か月の間にあなたのお父様がどれだけの犠牲を生み出すか
わからないじゃない!」
「それはそうだが……」
「ね、行きましょ!あたし、決心したんだから。」
「フリーもそう言ってますし、王子、行ってみてはどうでしょう。」
「アガネス、お前まで。」
フリーのみならず、アガネスも乗り気の様だ。
「分かった。行ってみよう。」
私はそう決心し、洞窟の入口へ近づく。
「決まったようだね。あ、気を付けて。罠とかあるから。」
族長のその言葉に一同の足が止まる。
「は?罠?」
私はそう聞き返した。
「そう。この洞窟には侵入者を撃退するための罠が仕掛けられているんだ。」
「じゃあ、安全にたどり着けないじゃない!」とフリーは怒っている。
「里の者たちはどうしているのでしょうか」
そんなフリーを横目にアガネスは冷静にそう族長に尋ねる。
「そういえばここで会うときは仕掛けが停止するとかいっていたっけな。
まあ、君たちなら大丈夫だろう。天使様の加護もついているし。」
「そんな、適当な……」
族長の言葉に私はそう返すしかなかった。
そして、族長は「幸運を祈るよ!」と言って、自分たちの集落へ戻っていった。
後には私たちだけが残された。
「どうしましょう。」
アガネスが私に再度確認してくる。
「仕方がない。決心したんだ、行くぞ。」
そう自分にも言い聞かせ私たちは、洞窟の中へと慎重に足を踏み入れた。
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