五章 根源への道

三十一話

「ねえ、ちょっといいかな。」


フリーが私にそう言いだしたのは、

銀の翼の一族の里まで案内してもらうことになり、

集落を出発してから一日目の夜。

何もない砂漠で野宿をし、夕食を食べ終えたころだった。


「なんだ?もう飯はないぞ。」


「ちょ、違うわよ。確かにまだ食べたりないけど……。もっと重要な話よ!

王子にだけ話したい話。」


「私にだけの重要な話?」


「そ、いいでしょ?お願い!」


フリーはいつになく真剣そうな表情で手を合わせて頼み込んできたので、

私は断ることができず、話を聞くことになった。


野宿している場所から少し離れたところで二人腰を下ろす。


空を見上げると満天の星が輝いている。


「で、話ってなんだ。」


私はそう切り出した。


「あのね、その……」


フリーは話しにくそうにしていたが決心したのか、

首を勢いよく縦に振ると話し始めた。


「王子、本当に誘導を封印するつもりなの?」


「なんだ?やはりフリーは反対か?」


「ううん、そうじゃないんだけど。ほら、あのおじいちゃんも言ってたでしょ。

誘導を封印するといろんな所に影響が出るって。」


おじいちゃんとはデイビスの事だろう。


「その時言ったと思うが、私はそれでも誘導を封印する。

すまないフリー。お前たちみたいな誘導体質の人々には迷惑をかけることになる。

でも理解してくれないか。この戦争を止めるために必要なことなんだ。

この国の人々だけでない、戦争している相手国も、ゼルグラード族も

全ての人を誘導を封印することで助けられると私は考えている。」


「うん、そうだよね。間違っていないと思うよ。ただ……」


フリーはそういってうつむく。


「ただ……?」と私は先を催促した。


「あたしがここまでついてきたのはね。王子と旅がしたかったからなの。

誘導の封印とかどうでもよかった。

手掛かりって言っても大したものじゃなかったし、できっこないって思ってた。

でも、ここまでとんとん拍子でことが進んで、誘導の封印も現実味を帯びてきた。

それで思ったの、このまま本当に誘導が封印されたら

どうなってしまうんだろうって。

ほら、あたしって超誘導体質じゃない?

だから、誘導がなくなったら死んじゃうかも。

そう思ったら、怖くなっちゃって。」


「フリー……」


何時も明るいフリーがそんな深い悩みを抱えているなんて思いもしなかった。

いや、考えようとしてなかったのかもしれない。

フリーが死んでしまうかもしれないと私は考えたくなかったのだろう。


「でもね、さっきの天使様の話を聞いて、考えが変わったの。

あたしが犠牲になっても大勢の人が助かるならそれでいいかなって。

天使様みたいに、自分を犠牲にしてでも

守りたいものを守る勇気を持とうって思ったの。

だから、あたしの事は気にしないで、王子の目的を果たして。

もしあたしが死んでも……それは本望だから!」


そう、フリーはこちらに笑顔を見せた。


私はなんて弱い人間なんだろうか。

このような犠牲が付くことをわかっていながら

まだ覚悟ができていなかったなんて。


「よし、わかった。フリーがそう覚悟したんなら。私も覚悟を決めよう。

誘導の封印によって起る悪影響はすべて私が責任を取る。

どんなことでも、この身を犠牲にしてでも償おう。」


「どんなことでも?」


「ああ、王子の座を降りろと言われるのなら降りよう。

影響を被った人に謝れと言われれば、土下座でもなんでもしてやろう。

フリー、お前が一緒に死んでほしいというのならば死んでやろう。」


「ちょ!冗談でもそんなこと言わないでよ。

でも、もし本当に何でもしてくれるって言うなら……」


そう言い淀んでそっぽを向くフリー。


「どうした?いってみろ。」


私がそういうと、フリーはこちらに向きなおり、


「いや、何でもない!

それよりあたしの分まで生きて、より平和な国を築くこと!」


「うむ、心得た。」


その私の返事をきき、フリーは満面の笑みを見せた。

そして、フリーは空を見上げながら腕を伸ばし、地面に横になった。


「あー、話したいことを話せてすっきりしたー。」


フリーは完全にくつろぎモードだ。


「ほら、王子も見なよ。今日も星がきれいだよー。」


「ああ、そうだな……」


私は促されるまま、しばらくフリーと一緒に星空を見上げていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る