ニ十六話
「天使様のお話だねー。じゃあ行くよー。」
女の子はそう元気よく話し始めた。
翼のない天使
昔々の大昔。天の国に一人の天使が居ました。
非の打ち所がない完璧な身体、頭の上に輝く神々しい光の輪。
そしてすべてを包み込むような、抱擁感あふれる大きな二つの翼持った、
それはそれはきれいな天使でした。
そんな天使は神様の言いつけで一つの村を見守っていました。
その村ではたくさんの人が暮らしており、畑で作物を作ったり、
ヤギから乳を搾ったり、動物を狩ったりしながら
一生懸命働いて、幸せに暮らしていました。
そんなある日、天使は一人の男の子が気になりました。
彼は近くであった村同士の争いに巻き込まれ、
両親を失い、一人この村へやってきたのでした。
そんな彼を村の人たちは、拒みはしませんでしたが歓迎もしませんでした。
男の子は食べ物をもらうため、村でいろんなことを手伝いました。
しかし、全然うまくいかず、それどころか失敗続きで、
しまいには何もさせてもらえなくなってしまいました。
彼は毎日わずかにもらえる食べ物だけで生きていました。
そんな男の子を不憫に思った天使は少しだけ自分の力を分けてあげました。
これがよくなかったのです。
力をもらった男の子はその不思議な力で村の人たちを助けました。
作物が大きく育つ様になったり、
狩りで必ず獲物がしとめられるようになったり、
彼が祈れば傷はたちどころに治り、雨をも呼ぶことができるようになりました。
そして、彼はこの村で欠かせない人物になりました。
しかし、よいことばかりではありませんでした。
その不思議な力を聞いた、大きな国の人たちが
彼の力を狙い争いを仕掛けてきたのです。
最初のころは彼の力もあってか、何とか戦えていました。
しかし、絶えることのない国の攻撃に村の人たちは次々と倒れていきました。
そんな争いに気づいた神様は、この争いの原因を生み出した天使を
罰として全ての力を失くした状態で、天界から追放することにしました。
そして、天使は地上界のその村に落とされました。
天使が落ちてきた村の人々は大いに喜びました。
天使がこの争いを解決してくれると思ったからです。
しかし、天使は何の力も持ってはいませんでした。
それを知った村の人たちは落胆し、戦う気も失せ、
村が滅びるのを待つのみとなりました。
力のない天使は何もすることができませんでした。
この村を救うことも、大切にしてきた男の子を守ることも。
滅びていくこの村を見ることしかできませんでした。
国の軍隊はもうすぐそこまで迫っていました。
天使は思いました。
「この争いは自分が蒔いた種、私が滅びるのは仕方がないこと。
でも、この村の人たちは関係ない。せめてこの人たちは助けたい。
この命に代えても。」
天使は決心し、そして自分の翼を切り落としました。
その翼の一つを武器に、もう一つを防具に変化させました。
そう、力が使えなくなっていても、神様からもらった体の一部である
翼には力が残っていたのでした。
その光景を見た村の人々は驚きましたが、同時に勇気をもらい、
天使が作った武器と防具を身にまとい、国の軍に立ち向かいました。
激しい戦いの末、村の人たちは軍を打ち倒し、この争いは終わりを告げました。
そんな光景を見て安心したのか、本当に力を使い果たした天使は、
あふれる勝利の歓声の中、静かに起きることのない眠りについたのでした。
「おわり!」
そう女の子は締めくくった。
ウグ…ウグ…と隣ではフリーが泣きそうな顔になっている。
そんなフリーを横目に私は女の子に問いかける。
「話してくれてありがとう。少し悲しいお話だったな。
で、その天使がここの天使様のモデルってことか。」
「うん、そうだよー。天使様は私たちに恵みと守りをもたらしてくれるの。」
「身を犠牲にしてまでも守ってくれる天使となると心強いですね。」
と、アガネスが珍しく感想を述べる。
「ううー、天使様ー。悲しすぎるよー。でもありがとぅ…ぅ…ぅ……」
フリーはまだ泣きそうな顔でそうつぶやいている。
私は女の子に改めて礼を言い、女の子は外へとかけていった。
翼のない天使か。翼をもつ一族とは真逆だな…。
その時、ある考えが私の頭の中に浮かんだ。
「そうか!もしかしたら!」
私は素早く食事を終え、アガネスにも急かし、私たちは速足で食事場を後にした。
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