二十三話

族長のテントの前には見張りが二人立っていた。


結構厳重だな。


そう思いながら族長に会いに来た旨を伝えると、難なく通してくれた。


「失礼します。」


そういいつつ私とアガネスはテントに入る。


中に入ると正面奥に机といすが置いてあった。


そこに座っているのが族長だろうか。机は書筒でいっぱいだ。


左右の脇には護衛が1人ずつ立っている。


族長は私たちに気が付くと

「やあ、よく来たね。」と立ち上がって挨拶をしてくれた。


「僕はこのゼルグラード族を指揮している。族長の”リュー”だ。よろしく。」


やはりこの一団はゼルグラード族で間違いなかったようだ。


それにしても族長はものすごく物腰が柔らかい。


「私はレイドと言います。こっちはアガネス。」と挨拶を返す。


族長は私より背が少し高く、スラっとした身なりをしている。

長く黒い髪を編み込んだ髪型、赤い目、褐色の肌。

そして何より――


「族長って思っていたより若いですね」


「おおっと、いきなりそんなことを聞くのかい?」


私の思ったことをそのまま口にした言葉に対し、

族長は少し威圧感を含んだ答えを返した。


確かにいきなりこんなことを言うのは無礼かもしれない。


「すみません。気を悪くしましたか。」


「ははは、冗談だよ。」


……なんだろうこのつかみどころの無さは。


そう私が感じている中、族長は話を続ける。


「君の言う通り、僕は若いよ。まあ、君よりは年上だけどね。

若いからって甘く見ないでくれよ。それ相応の実力はある。…つもりだ。」


最後のほうは聞きとれなかったが、どうやら実力は確からしい。


これは期待できるかもしれない。


私はすぐさま本題に入った。


「では、単刀直入に聞きます。

私たちは金と銀の翼をもつ一族を探して旅をしています。

その一族について何か知っていることはありますか?」


「金と銀の翼をもつ一族か……」


族長は考え込んでいるようだ。


左右の護衛は顔を向けあって、目配せをしているのだろうか。


少しした後、族長は口を開いた。


「うーん、わからないな。すまない、力になれなくて。」


「何かそれにつながる手掛かりとかでもいいんですけど」


「いや、本当に何も知らないんだ。ごめん。」


「そう…ですか。」


正直かなりつらい。3日も野宿したのに何も成果無しはこたえる。


そんな私を見かねたのか、族長が

「な、なんだ。代わりと言ってはあれだけど、

うちの民族料理を楽しんでいってくれ。

お金は取らないし思う存分食べるといい。」と

何とか励まそうとしてくれているが、

私はいま何を言われても立ち直れる気がしなく、

気の抜けた返事しか返せなかった。


「は、はい。ありがとうございます……」


「何かわかったらすぐ連絡から。」


「ありがとうございます。失礼します。」


族長の言葉を半分聞き流しながら、私達はテントを後にした。


「はぁ……」


「随分大きなため息ですね、主様。

確かに何も成果を得られなかったのは大変残念ですが、仕方がありません。

また一から出直しましょう。

さあ、元気をだしてください。民族料理とやらを食べに行きましょう。」


そういいながら、アガネスはうなだれる私を、食事場へと導いた。

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