四章 金と銀の翼を持つ一族

十七話

「王子、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか。」


そうアガネスが聞いてきたのは、

デイビスに教えてもらった場所で野宿のためのテントの設営を終え、

あたりが暗くなりはじめたので焚火を炊き、

その火で調理した夕食を食べ終えしばらくした後のことだった。


「いいぞ。なんだ?」


私は地面に置いたクッションに座りながらアガネスに答える。


フリーは慣れない力仕事に疲れたのか寝転がって、今にも寝てしまいそうだ。


いや、もう寝ている。


アガネスは私から焚火を挟んで向かい側の地面に直接座っていたが、

「では、失礼して。」と立ち上がり、

私の近くに来て座りなおすと、私たちは話し始めた。


「その探している一族のことです。」


「ゼルグラード族の事か?」


「いえ、その前、翼の一族の事です。」


「ああ、金と銀の翼をもつ一族の事か。どうかしたのか?」


「はい、実は王子はその一族の事をどこで知ったのかと思いまして。」


「ん?話していなかったか。それはだな……」


そういって私は近くにある私のカバンの中から一冊の本を取り出した。


”魔力滅道”そうタイトルに記されている。


「この本は…!」


いつも冷静なアガネスだがこの本を見たとたんとても驚いた表情をした。


それもそのはず。


「ああ、魔力派が書いた本だ。」


「しかし、すべて処分されたはずでは。」


そう、この本は処分された。処分されたはずだった。

わが父、この国の王によって。


この本だけではない、魔力派のかかわりのあるものすべてが処分された。


像やシンボルは粉々に、書物は焼き捨てられ、建物は取り壊された、そして――


魔力派の人々は全員処刑された。


関わり合いにある者も処罰を受けたほど厳しいものだった。




”魔力派”


そのような一派がこの国に存在した。


私が生まれる以前より、私のように誘導を危険視した人たちだ。


彼らは誘導により、便利になる世の中を喜んでもいたが

同時に危機感も抱いていた。


このまま、誘導による人類の進歩が進めば

いずれ人は堕落してしまうのではないかと。


そして、時が過ぎるにつれ、その危機感は大きく膨らみそして、

常軌を逸した考えにまで行ったった。


誘導は人を堕落させ、いつしか人類をも滅ぼす悪魔の力となる。


悪魔の力、すなわち魔力というわけだ。


そして誘導体をめぐる戦争などにより、

そのような考えを持った人たちが増え始めた。


誘導は悪魔の力だ。使ってはならない、抑止せねばならない、と。


彼らは自分たちの考えを広めるため、露頭で演説をし、

本を出版し、自分たちの活動拠点まで作った。


活動は徐々に大きくなり始め、

そして誘導兵器で押し進む方針の王と対峙状態にまでなったのだ。


城内でも意見が真っ二つに割れており、

今までと変わらず誘導で推し進めるべきだとする”誘導派”と

誘導は人を滅ぼす力で禁止すべきだとする”魔力派”とに分かれた。


このようにして魔力派というのは出来上がった。


そして魔力派の中にはアガネスの父もいた。

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