十六話
「私は金と銀の翼をもつ一族を探しているのです。」
私は単刀直入にそう話を切り出した。
「ほう、なぜ探しておられるのですか?」
とデイビスは間を開けず聞いてくる。
「それはですね……」
私は少し躊躇したが、話をつづけた。
「誘導を封印するためです。」
「ほう!」
デイビスはかなり驚いた様子を見せた。
それから「なぜ誘導を封印しようなどと思ったのですかな?」
と食い気味に、何か期待しているような目をしてそう聞いてきた。
「あなたはご存じないかもしれませんが、
今の王は誘導体を入手するために戦争をしています。
そしてその戦争で得た誘導体を使い多くの兵器を開発し、
それを使いまた戦争をすると。」
デイビスは好奇心の満ちた目で黙って聞いている。
「我が国と相手国、双方に多くの犠牲者が出ています。
しかしわが父は戦争をやめようともせず、
それどころかより強力な武器を生み出し続けている。
私はそれを止めたい。この殺戮を。
必要のない死から人々を助けたいのです。」
アガネスは私の横で腕を組み、黙って話を聞きつつ、
何か考えているような顔をしている。
「それともう一つ、理由があります。」
私は一呼吸置いてから、話を続ける。
「父は最近あるものを生み出したのです。
私は嫌々ながらも、父に強引に戦場に連れられ、そしてそれを見ました。」
そう、それはあの夢の光景。
「今まで見たどの兵器よりも強力で、そして恐ろしい力でした。
今まで見ていた戦場が一瞬にして光に包まれ、
そしてそのあとには何もかも、あと方もなく消えていました。
私はその時の光景が忘れられず、今でも夢に見ます。
私はどうにかしてこの悪夢から解放されたいと考えたんです。
それが二番目の理由です。
情けない話ですが、私は先ほど言ったような人々を助けたいなどという
大義だけで動けるような出来た人間じゃありません。
結局は自分のためであって、自分が苦しみから解放されたい。
そういったことでしか動けない弱い人物なんですよ。私は。」
そう、話を締めた。
ふと視線を感じて横を向くと、フリーがさっきの場所でしゃがんだままだが、
こちらを向いて、私の話を聞いていた。
どうやら調整は終わったようで、すこぶる調子がよさそうな顔色をしている。
「そして、その両方が解決する方法が誘導の封印というわけなのじゃな。」
デイビスがそう話を付け加えてきた。私はそれにうなずいた。
「しかし、本当に誘導を封印してしまったもよいのかのう?」
「どういうことです?」
私はデイビスに聞き返した。
「誘導を封印するってことはじゃよ。
この世から誘導がなくなるということじゃ。
確かに兵器は使えなくなるじゃろう。だが、それだけではない。
我々の生活を支えている誘導具も、使えなくなるじゃろう。
それに、その子のように体内に誘導を宿した生物は
少なからず何らかの影響をうけるじゃろう。」
そういって、デイビスはフリーのほうを見る。
私はそんなデイビスの言葉に対し、
「確かにそうかもしれません、今まで通りの生活は遅れなくなり、
誘導を持った生物たちは衰えることになるでしょう。
しかし、このままいけばおそらくすべてが滅んでしまいます。
そうなる前に、たとえ文明が退化するとしても、
誘導を必要とする生物が滅ぶとしても、
この国、人々を守りたいのです。」
私はなぜ自分でもそう思うのかわからないほどに
誘導の封印を強く望みながら、そう反論した。
デイビスはそうか、とつぶやいてうつむき、しばらく考え込んだ後顔を上げ
「王子の思いは十分わかりました。わしも協力しましょう。」といった。
「えっと、導力を封印するためにある一族を探しておると。」
そうデイビスは続けた。
「そうです。何か知りませんか。」
「そうですねえ、わしは知りませんがもしかしたら……。
ゼルグラード族は知っておりますかな。」
私の問いにデイビスはそう答えた。
ゼルグラード族?私は知らないが、と横目にアガネスを見る。
そうするとアガネスが答えた。
「ゼルグラード族。
この国ができる以前、はるか昔より砂漠に住んでいる一族のうちの一つです。」
「そう、そのゼルグラード族じゃ。」
デイビスはご名答!という調子で、話す。
「普段からゼルグラード族は、この広大な砂漠を遊牧しておるのじゃが、
実はじゃな、もうすぐこの近くにやってくる時期なんじゃ。
もしかしたら彼らなら、探している一族を知っているやもしれん。」
そういって私たちにそのゼルグラード族のやってくる場所を教えてくれた。
「ありがとうございます。」私はデイビスに頭を下げた。
「いやいや、王子の役に立てて光栄じゃよ。」とデイビスは謙遜する。
「デイビス殿一つ聞いてもよろしいでしょうか。」とアガネスが言い出した。
「何じゃね?」
「あのヘルたちとはどういうご関係なんでしょう?」
アガネスの問いにデイビスはこう答えた。
「ただここに住まわせてやっている悪ガキどもじゃよ。」
「あの者たちは孤児なんでしょうか。」とアガネスは続けて問う。
「そうじゃろうな……」とデイビス。
「そうですか……」とアガネス。
そして私たちは来た道をまた機械人形に案内してもらいながら
(またエレベーターなるものに乗るのを勧めれたが信用できないので断った)
謎の建物を出てた。
辺りはおぼろげに明るくなり始めていた。
そこからいったん街に戻り準備を整え、
教えてもらった場所に私たちは向かったのだった。
そう、あのような地獄が待っているとも知らずに。
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