十五話

振り返るとヘルだけでないあの大柄と小柄の手下も一緒だ。


服は着替えたのかもうやぶれてはいなかった。


「そうよ!リリウムを返してもらうんだから!」


そうヘルに突っかかるフリー。


「あ?リリウムってこのペンダントか?」といい

ヘルは首飾りを手に持って見せた。


「ふむ、まだちゃんと持っているようじゃの」とデイビス。


「おい、じじい何の真似だ。大事なようがあるとか何とかで呼びやがって。」


ヘルは不満をあらわにしている。


「大事じゃろ?この者たちがそれを取返しにここまで来とるんじゃから。」


「はっ、返す気なんてねーよ。

それより、じじい、こいつらがなんなのか知っているか?」


デイビスは黙って私たちを見た。ヘルは続ける。


「軍の関係者だぜ。ははは、お前ら残念だったな。

じじいは軍が大嫌いなんだよ。」


手下二人もヘルと共に笑っている。


デイビスは黙ったままだ。


くそ、やはり罠だったか。


いくら切羽詰まった状況だからと言って準備もなしに敵陣にノコノコ入って、

しかも案内までしてもらって、リリウムを返してもらって

「はい、さよなら」ってわけがない。


しかしどうする。前にはヘルたちがいるし後ろはデイビス。

しかもこんなに広い空間なのに出入り口は一か所だけの様だ。


アガネスに壁に穴でもあけてもらおうか。

しかしここは施設のどのあたりで何階なのかさっぱりだ。


フリーに調べてもらっている暇もなさそうだしな。


そう考えを巡らせていると、

デイビスが椅子の手掛けにあるボタンの中の一つをおした。


ゴウンゴウン……

と低い何か動いているような音が鳴り響く。


「なんだ!?いったい何をした!?」


私たちは動揺した。


一方でヘルは「ここでお前らも終わりだな」と、

余裕の笑みを浮かべている。


ガコンガコンガコンガコン……

徐々に音が早くなっていく


バン!

突然扉を勢いよく開けたときのような音がして、床が開いた!


が、私たちの乗っている場所ではなく、

ヘルたち盗賊団が乗っているほうの床が開いたのだった。


「なっ!くそじじいぃぃぃぃぃ……」


そしてヘルたちは叫びながら落ちていった。


私たちは何が起きたのかわからず、唖然としていた。


デイビスは一言、

「うむ、うるさいのが居なくなったの。」


「あの、いいんですか?こんなことして。」


私はたまらずデイビスにきいた。


「いいんじゃ、いいんじゃ。

まだ、探し物を持っていることが分かればそれでよい。」


なるほど、リリウムを持っているかどうか確認のために呼び出したのか。


「あの、でもまだ返してもらってないのですが。」


フリーが心配そうに尋ねる。今の光景が衝撃的過ぎたのか少し弱めの口調だ。


「大丈夫じゃ、そう心配せんでも取り戻せる。」


デイビスは自信満々だ。


落ちた彼らは大丈夫なのだろうか。と思い聞いてみる。


「それも大丈夫じゃ、落ちても死なんよ。それよりもじゃ、

ここまで追ってくるほどあの首飾りは大事なものなのかの?」


私は珍しく頭が痛そうにしているフリーの代わりにリリウムがどういうもので

フリーに必要不可欠であることをデイビスに説明した。


「なるほど」と言うとデイビスは突然大きな声で、


「聞こえておったじゃろ!返しなさい!」と叫んだ。


そして、また180度椅子をくるりと回しカチャカチャとなにやら操作すると、

壁の無数の箱のうち最も大きな箱にヘルたちが映された。


そこには網の上で大の字で寝っ転がるヘルたちの姿があった。


「ほれ、返しなさい。」とデイビスはカチャカチャとまだ操作している。


映されているヘルを見るとそばに機械の手の様なものが伸びてきていて、

デイビスはそれに渡すよう言っているようだ。


ヘルはしぶしぶそれにリリウムを渡すと、


「ちぃ、覚えてろよ!じじいもお前らも!」

と、やけにこもった声でヘルがののしっているところで

箱からヘルたちは消え去り、ちがう景色が映されていた。


そしてしばらくしてピンポーンと音がしてデイビスの椅子近くの床から

さっき見た機械の手が出てきてた。


その手にはリリウムが握られていた。


「ああ!よかった!」


ダッシュでリリウムをつかみ取り、即座に首に着けるフリー。


そしてこちらに背を向けかがみこんだ。


おそらく調整を行っているのだろう。


あの態勢は一番集中できるとかなのだろうか。


「ほんとうに申し訳ないのう。」とデイビスは謝ってくれた。


「いえ、むしろ取り返してくれたことに感謝しますよ。」

と私はデイビスに告げた。


「いやはや、この年で王子に感謝されるとは。」


「え!私を王子と気づいていたのですか!?」


やはり、あの時聞かれていたか。


「ええ、そのおつきの方が王子と言う前に気づいていました。」

と、アガネスのほうを見る。


アガネスは申し訳なさそうな顔をしている。


デイビスは続ける。


「その金色の目、王家特有の特別な目です。

王のあの目を忘れることはできません。もちろんあなたもね。

幼いころの面影があります。」


私はあまり人前に立ったことが無い。幼いころに数回程度だ。


近年は戦続きで式典なんかもやることはなく、

近年の私を知るものは城に使える者ぐらいだろう。


「ちょっと待て、最初から知っていたということは、

お前は王子と分かっていながらあのような罠を仕掛けたというのか。」


アガネスがさっきとは打って変わって冷静を装っているが、

怒りを押し殺しているような強めの口調でデイビスに食って掛かった。


「罠?わしは罠などしかけた覚えはないのじゃが……」


「とぼけても無駄だ、あの最初の部屋といい、細い通路といい、

さっきの床の仕掛けといい。」


「おお、最初のな!

あれはエレベーターと言ってな、素早く建物をいどうでき――」


「そんなことはどうでもいい!王子を危険な目に合わせようとした。

それが問題なのだ。」


アガネスはデイビスの話をぶった切り、

どう責任を取らせようかといった具合だ。


デイビスは話を切られたことでシュンとなっている。

聞いてほしかったのだろうか。


「まあ、今回は首飾りを取り戻したということで不問にしといてやろう。」


とアガネスは結論づけた。


私にはデイビスをどうこうしようという考えはないのだが。



「王子様、どうかわしの質問に答えてほしいのじゃが。」


デイビスはやたらと畏まった口調で私に尋ねてきた。


「ああ、いいですよ。それとそこまで畏まらなくてもいいです。」

と私は答えた。


「ありがとうございます。質問とはですね、

王子はなぜこんなところにいるのかということでして。

用もないのにこんなところまで来ることはないと思うのです。

何か理由がおありですか。このような老人でも役に立てるかもしれません。」


もっともな疑問だ。私は城で暮らしているべきだし、

このようなところに用もなく来るべきではないのかもしれない。


しかし、旅をしているわけを敵ではないにしろ、

このような謎の建物を作り理解しえない研究している者に

話してもよいものなのだろうか。


誘導を封印するなどと言ったら半狂乱になったりしないだろうか。


だが、情報は少しでもほしいところだ。

私は意を決してデイビスに話すことにした。

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