十一話
「やあやあやあやあ。」
急にどこからともなく声が聞こえた。
どこかこもった、クリアな人の声とはまったく異なる独特な声だ。
どうやら扉がある方向から聞こえてきているようだ。
「こんな夜中にご客人ですかな?いやぁ、珍しいこともあるもんですな。
外は寒いでしょう中にはいりませんか?」
「お前は何者だ!どこから話している。」
驚いた私はそう問い返した。
「あー、すみませんね。少しマイクの調子が悪いみたいでして。
なにかおっしゃっているのは分かるんですが、もっと大きな声でお願いします。」
なんだかわからないが、私の声が届かない遠くにいるようだ。
「お前は何者だ!!!姿を見せろ!!!」
今度は思いっきり叫んだ。
「あー、ありがとうございます。聞こえました。
えー、わしは何者かじゃと。姿を見せてほしいと。
わしの名はデイビス・バベルと申します。デイビスと読んでいただければと。
それと、姿を見せてほしいとのことでしたが、
申し訳ないのじゃが、それはできないのです。
その代わり、質問があれば答えましょう。こう見えても博識なのですぞ。」
その口調からしてあまり信じられないが、私は試しに質問してみることにした。
「ここは何なんだ!!!何をしている!!!」
「えー、ここはわしの研究施設。
あらゆる現象を研究し、思いついた発明品を作る。
そういうことをしている施設ですぞ。」
こんなところで研究とはきっと危ない研究なのだろう。
注意しなくては。ことによっては破壊も考えないとな。
「兵力はどれほどだ!!!武装はどれだけしてある!!!」
答えるわけないだろうが、
いま私達が危険な状況下にあるのか分かるかもしれない。
「兵力?武装?はっ!そんなものくそくらえですな!
…っと、ちょっと今のは言葉が汚かったですな。」
今の嘘をついているように感じなかった。
武装がない?いや、まさか。演技なのか?
かなり疑問ではあるがいいだろう。本題に入ろう。
「ここにヘルってやつがいるはずだが知ってるか!!!」
「……ヘル?知りませんなそんな輩は。その者がどうかしたのかな。」
どうやら知らないふりをするようだ。
フリーに小声で話しかける。
「フリーどうだ、やつらの位置は。」
「まだ動いていないみたい。でもへんね。
ここの建物には4人しか人の存在が確認できないわ。
それに武装も本当になさそうなの。あの大砲っぽい建物だけど
中身はガラクタの山みたいだし他の建物にも武装が見当たらないの。」
もしそうなら、このデイビスってやつは全部本当のことを言っているのか?
そうなると中には盗賊三人とあと一人。
話し方からしてあの盗賊たちとは考えられないからデイビスか。
デイビスは盗賊が入っていることに気が付いていない?
しかし私たちが近づいたことには気が付いた。
「もしもし?聞こえてますかな?」
ふいにデイビスが声をかけてきた。
「あ、ああ!!!」
とっさにそう返し、続けざまにさっき浮かんだ疑問を投げかけてみる。
「ここに盗賊がいるはずなんだが!!!気づいていないのか!!!」
盗賊たちはデイビスに気づかれないようにして、
ここをアジトにしているのではないかと思ったのだ。
しばらくの沈黙の後、デイビスは長い溜息をつきつつ話し始めた。
「はぁーーー、まったく。困ったものですよ。」
声からいらだっていることが伝わってきた。
やはりこの質問はまずかったか。私たちは身構えた。
「まだ、続けていたんですか。本当に。」
しかし、攻撃の気配はなかった。デイビスは続ける。
「いや、すみませんね。とんだご迷惑を。
わざわざここまで来るってことは相当大事なものなんでしょう。
返す準備をいたします。ええ、絶対返させていただきますとも。」
どうやら、怒りの矛先は私たちではないようだ。
「直接返したいのですけど、少し訳ありましてそちらから来ていただけますか?
いま扉を開けますので。」
そういうと、正面の建物の扉が開いた。
正直まだ信用ならないが、うそをついているようにどうも思えなかった。
私たちは顔を見合わせると、周りに注意しながらその扉に近づいて行った。
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