三章 砂漠に建つ謎の建造物

九話

日が暮れかかっており夜は近いが、誘導灯のおかげで街は明るい。


昼間にはわからなかった赤や緑などカラフルな誘導灯が街を盛り上げており、

今も大勢の人々が通りを行きかっている。


さすが歓楽街といったところか。


「こっちね。」


そういい、フリーはどんどん進んでいく。


そして街の門にたどり着く。


「どうやら街の外みたい。この先だわ。」


街の外は打って変わって暗く、

地面に道しるべとして光っている誘導灯がポツポツあるだけだ。


夜の砂漠は冷えるが、一刻を争う。


私たちはフリーを先頭に夜になりつつある砂漠を歩み始めた。


しばらくすると辺りはすっかり暗くなった。


風が吹くと身震いしてしまうほど寒い。


フリーの誘導に従い道標がないところを歩いていると、

「うーん、あれかなぁ?」とフリーがつぶやく。


進んでいる先に何か建物の光の様なものが見える。


分からないがとりあえず近づいてみることにした。


だんだん近づくにつれ、それは建物であることに間違いはなかった。


しかし、その形状は今まで見たことのないものだった。


下からライトアップされていて、はっきりとわかる。


円錐の屋根がついた大小の塔、細くて長い円柱の柱、

砲台がそのまま建物になったかのような形をしたもの、

丸く平べったい皿の中心にポールが刺さったような見た目をしたもの、

キノコのような上部分がドームになっているものなど、

様々な形をしたものが組み合わさってその建造物は成り立っていた。


ついでに、カラフルな色付けがされている。


建物は全て金属でできているのだろうか、鈍く光を反射させている。


建物の周りは、金属の網でできた3mはある高いフェンスで囲まれていた。


しかも時折、火花が散っている。


「なんなんだあれは…」


あまりにも奇妙な光景過ぎてそれしか言葉に出なかった。


「皆目、見当もつきませんね。」


「世の中不思議がいっぱいだね!」


アガネスはいつもと変わらず冷静、フリーは楽しそうだ。


「フリー、あの中か?」と私は尋ねた。


「そうみたい。まさかあんなのが盗賊のアジトなんてね。

驚いちゃった。もっとこう、隠れ家っぽいのを想像してたよ。」


確かに砂漠にぽつんと、しかもあんな奇抜な建物があるとは思いもよらなかった。


「しかし、どう侵入しましょうか。守りが厳重そうです。」


アガネスは顎に手を当て、考え込んでいる。


「あたしがちょちょいのちょいで扉をぶっとばし…」


と調子よく途中まで話していたフリーが突然ふらつき、地面に崩れ落ちた。


私は、そんなフリーを助け起こし支えてやる。


「おい、フリー無茶するな。」


「あはは、ごめんちょっと使い過ぎちゃったかも。」


笑ってごまかしているものの、顔色はよくない。




誘導は無限に使えるものではない、力を使えばそれだけ消費されていく。


無生物の誘導体は誘導を失ってもただの物になるだけだが、生物はそうではない。


誘導が生物の身体機能の補助を担っている。


なので、体内の誘導が一定値を下回ると身体機能に影響が出る。


誘導身体含有率が多い人ほどその影響は大きい。


といっても、たいてい頭痛がしたり、体がだるくなる程度だ。


しかしフリーの場合、身体機能のほとんどが誘導ありきで、

失えば死ぬ可能性もあるかもしれない。


平常値でも油断はできず、調節を一歩間違えば暴走の可能性だってある。


フリーはいつもそのことに気を付け、体内の誘導の調整を行っているのだ。


多くの誘導を宿すことはその分多くのリスクも負うことにもなるのだ。


そのリスクと負担を緩和するために、体内誘導の調節を行う役割をもつ

誘導体でもあり誘導具でもある”リリウム”をつけていたのだ。


それがない今、フリーは自分で自分の体内の誘導の調整を行っている。


それに加え探知も行っていたため、疲労がたまったのだろう。


一刻も早く取り戻さないと。


しばらくは大丈夫だと思うが、いつ暴走が起きるかわからない。




「少しここで休もう、対策も練る必要がありそうだしな。」


私はそういい大きめの布を地面に敷き、上にフリーを寝かせ、

その間アガネスはそばに簡易式の焚火を設置した。

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