四話

「それで、旅の目的はなんですか。」


料理にがっつくフリーを横目にアガネスが尋ねてくる。


「ああ、大声では言えないんだが。誘導を封印しようと思っている。」


私がそう答えるや否や


「誘導を封印!?」


と料理に夢中になっていたフリーが大声を上げた。


「それって、誘導創製力学的反作よ…う…」


フリーは途中で食べ物がのどに詰まったのかゴホゴホと咳き込み、

慌てて水を飲み込んでいる。


「ちょ、大声だすな。アガネス、ちょっと押さえておいてくれ。」


「了解しました」


「で、でも誘導を封印って」


水を飲みほしたフリーがまた話し始める。


「アガネス」


「はい。」


そういい、アガネスはフリーの腕を背に回し締めた。


「いたたたたあー。わかった、わかったよー。おとなしくするからー。」


「さて、話の続きを」


そういいつつアガネスはフリーの腕を放す。


フリーは腕をさすっている。


私は話を進める。


「誘導の封印についてだな。」


「はい、いったいどのような方法で?」


「方法は分からない。」


「は…。では何か手掛かりが?」


「ああ、金と銀の翼をもつ一族だ。」


「それに心当たりがあると。」


「いや、ない。」


「…では、ほかの手掛かりは。」


「いや、これだけだ。」


「それだけですか。」


「これだけだ。」


「それだけで…、よく旅に出ようと思いましたね。」


「なんだ、おかしいか?」


「おかしいってだけじゃ済みませんよ。まったく、ついてきて正解でした。」


と、アガネスは淡々と話に付き合っていたが完全にあきれている様子だ。


そんなにおかしいか?


「それで、これからどうするおつもりですか。」


アガネスは飽きれながらも話は進めて行くようだ。


「ああ、ここで聞き込みをしようと思っている。

多くの人が訪れるここならなにかしら情報があるかもしれないからな。」


「でも、知っている人なんているのかな。」


腕の痛みはひいたのかフリーが割って入ってくる。


「ふーむ…」


私は店内を見渡してみる。


いかにも格式が高そうな身なりをした人や、昼間っから酔いつぶれている人、

ここの護衛なのか軽鎧を着たがたいのいい男、

避暑のためか顔も隠れるほどのかなり深いフードのついたローブを着た人など、

様々な人がいる。


確かにこの中から探すのは大変そうだな。


「ね、こういうのは酒場の主人が知ってそうな人を紹介してくれるってのが

セオリーじゃない?」


とフリーが提案してくる。


「そういうものなのか?ふむ、じゃあ、店主を呼んでみようか。」


そういい、店員に店主を呼んでもらうことにしたが、

どうやら出かけており、夜に戻ってくるそうだ。


「うーん、仕方がない、他の店にでも行ってみようか。」


私たちは食事を食べ終えたので、立ち上がった。


「おい、あんたたち。」


ちょうどそのタイミングで私たちに声がかけられた。


私と背が同じくらいの身軽そうな格好をした人物が声をかけつつ近寄ってきた。


燃えるような赤い短髪に赤い目、褐色の肌。結構整った顔立ちをしている。


年も私と同じくらいだろうか。


「誘導の封印がなんだとか言っていたな。」


「げ、聞かれてた…」


フリーがマズいねみたいな顔で小声でつぶやく。


「まあ、あんな大声だしゃ、いやでも聞こえるってもんだ。」


どうやらその小声も聞こえていたようだ。


こうなったら仕方がない。


「そうだが、なにか知っていることでもあるのか?」


私はぶっきらぼうに答えた。


「おお、そんなに警戒しなくても。」


そうは言っているがその人物は動じている様子はない。


「俺はヘルっていうんだ。そのだな、封印について情報を持ってるんだが。」


「本当か!?」


はっきり言って驚いた。こうも簡単に手掛かりがつかめるとは。


「しかし、ちょっとここでは話づらいね。場所をかえようか。」


そういい、ヘルはついてくるよう手招きし、店の出入り口へ歩いて行った。


「どうする?」


私は二人の顔を見た。


「いやぁ、こんなことってあるんだね。災い転じて福となすってね。」


フリーはなぜか上機嫌だ。


「私はお・・・主様の判断に従います。」


アガネスは王子と言いそうになり、言い直した。


王子って言葉はむやみに口にしないほうがいいと考えたのだろう。


「いまは特に決まったこともないし、可能性があるなら断る理由もないな。」


少し、いやかなり怪しいが、私たちはヘルについていくことにした。

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