現実.12

十体のゾンビ。

新しく集まって来ても二十体にはならないだろう。

そろそろ暗くなる。コンビニを見つけた。駐車場にあったワゴン車。窓は割れていない。それをコンビニの裏側の壁に動かす。

道からは見えないし、ここならゾンビがどこを押そうが倒れる事はない。


どの車もガソリン補給口が開いている。ガソリンは空だという事だ。


コンビニの中もほとんど空だろう。


車を動かしたせいで肩が外れた。いくら気をつけても壊れる時は壊れる。


ワゴンの中にシェラフや荷物を入れる。

荷台も適当な場所に隠す。


「どこかに川とか無いかな?」

志織は言う。多分身体を洗いたいのだろう。

どこの家も水はほとんど出ない。浄水場のポンプ加圧機と水道水濾過器の電気がつかないからだ。電気が無ければ水道水は出ない。


コンビニ内を物色する。ゾンビの入って来る気配は無い。


何も無かった。

「近くの民家に行く?」

志織の言葉。俺は迷ったが、せっかく車を動かしたのもあり、移動はしたくはなかった。

今日はここで宿泊するつもりだった。


「家探しだけ行ってみるか」

新しいゾンビの姿は一体も居ない。普段なら新しいゾンビがやって来てもいいのだが。


ゾンビが居ないという事は人間も居ないという事。良い事なのだが、これだけ静かだと逆に気味が悪い。


志織も感じてたのか、

「なんか静か過ぎてイヤだな」

と独り言のように言った。

「カラー君達が居るだろう」

俺は言った。民家を一軒ずつ家捜し。


道路の荒れ具合や民家や庭の荒れ具合で、その土地の住民がいるのかだいたい分かるようになった。


民家の押入れに布団があった。

今夜は布団で寝るか?の俺の問いに志織はうなづく。


布団。包丁。塩や砂糖の調味料。服。雨ガッパ。傘。軍手。魔法瓶。割り箸。漫画本。


「なぁ、シャンプーあったっけ?」

志織は、少ない。と答えた。

シャンプー。タオル。

懐中電灯。これはありがたい。


「大きな枝切りハサミあるよ」

志織が見つけた。

枝切りハサミ。潤滑油。


これだけの生活品が残ってるのは珍しかった。本当にありがたい。

テレビの横にこの家の家族写真が飾られている。

この家の中には血痕が無かった。無事だといいが。と思う。


隣の民家に移動。


隣の民家の台所。

書き置きの紙が机の上に。


[浩二へ。母さん達は本家にいます。見たら必ず来るように]

その文字と地図が置いてあった。地図の三浦家の場所に赤い丸。

この辺りの人達は早めに避難できたのだろう。


地図。これも助かる。

志織が近付く。

「もし浩二君が来たらどうするの?」

俺は、紙に本家までの手書きの地図を書き

[頑張れよ。地図は貰った]

と書いた。


「行ってみる?」

と志織。


赤い丸で囲まれた三浦家はさほど遠くない。

五キロ程の場所。

「明日寄ろうか」

俺は言った。


多分、そこが本家だと思う。井戸がありそうだし、クワとかカマとか武器になりそうなのもありそうだ。

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