現実.7
プロパンガスを乗せる台車に、シェラフや荷物を乗せ、そのてっぺんに志織が登る。そして頭から毛布をかぶり顔だけ出す。
人間に見られても分からないし、志織は進む先や、周り、遠くを見渡せる。
その荷台を俺が引っ張り歩く。赤ちゃんを乗せた乳母車並みの重みしか感じない。
俺が気をつけなきゃならないのは、足をくじかない事。痛みが無いから気付かず折れて曲がったまま歩く。そうなるとたくさんのタイヤの上を歩いてるようで危ない。
移動手段を色々試したが、これが一番効率のよい進み方だと思ってる。
道路は動かない車やバイクが今だに散乱し、車での移動は無理。バイクも自転車も転んだ事があり辞めた。リヤカーも微妙だった。一日でパンクした。
プロパンガスを運べるこの荷台がタイヤも頑丈で小さい割りに高さもあり、ベスト。
志織はアイパッドを取り出し音楽を流した。曲は変わらない。それしか入ってないからだ。後ろからゾンビがついてくるのも変わらない。変わらないいつもの光景。
「ゾンビは二十一体。昨日より減ってる」
志織は俺に向かって言った。
昨日は二十五体だと言ってた。
二十体位がちょうどいい。これも経験から決めた。
「もう一回数えたら?」
「三回数え直したらからあってる」
「だからもう一回数えたら?」
「えー」
「暇なんだし。いい暇つぶしになる」
志織はまた数え始めた。
決して平和では無いのだが平和なひとときだと俺は思ってる。
危機が無い時間が平和。
鳥のさえずりが聞こえる。
鳥や昆虫のゾンビは見た事はない。
カラスやスズメは屍肉を食べてるがゾンビにはなっていない。
音楽を聴きながらひたすら歩く。疲れはない。ゾンビの身体でありがたいと思う事の一つ。
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