現実.6
志織がムクリと起きだした。
強弱センサーで志織を見る。明るい場所では少しコツがいる。
大丈夫。今日も調子は悪くない。
「おはよう」
俺は言った。志織は挨拶を返し、寝ないの羨ましいな。と続けた。たまにだが同じ事を言う。
「二度寝や昼寝。うたた寝に、まどろみとかの心地良さが味わえないのは寂しいよ」
と俺もいつも返してる言葉を言ってやった。
その良さが味わえない代わりに睡眠の時間を好きに使える。どちらがいいのか分からない。
志織は曖昧な返事をした。
「トイレ行きたい」
目薬をさした志織は恥じる事なく言った。
俺はついて行く。簡易式のトイレ。
最初は恥ずかしがってたし、俺も気まずかったが、今ではお互い慣れてしまった。
ゾンビが俺に近付かない距離は約八メートル位。つまり四メートル以上、志織が離れてしまうとゾンビは志織に襲いかかる。
ゾンビの力は俺と同じで強い。想定どころか想像つかない事をときたまやる。
大きなトラックの荷台で休憩した時だ。
トラックの周りはゾンビで囲まれている。ゾンビは上がれないし、もし近くに人間がいてもゾンビが居るから狙われない。高い所は安心出来る場所。
その時、俺は少しの間だけ離れた。ゾンビの摂取。
ゾンビを捕まえようとトラックから降りたら、俺が降りた方のゾンビは俺から逃げ出し、反対側に居たゾンビがトラックを押し出す形になった。
トラックを押すバランスが崩れ、トラックが傾き、危うく志織が大変な目にあうところだった。
トラックの一番近くにいたゾンビは押し潰されていた。
弱まったゾンビはじきに喰べ尽くされる。
「あのゾンビ居なくなったね」
用を足し終わった志織が言った。我に返る。
あのゾンビ。頭上半分が無いゾンビ。昨日、志織が可哀想と言ってるから、麦わら帽子をかぶせたゾンビ。
目が無くても跡をついて来る。強弱センサーで見てるからだと思う。
脳みそで感じたり考えたりすると思っていただけにあのゾンビは不思議なゾンビだった。
摂取する口さえあればゾンビは生きていけるのだろうか?
俺もゾンビも、体内に人肉を取り込めばすれば吸収出来る。
腹が裂けてるゾンビの裂け目に転がってた死体の一部を詰める。すると再生していくのだ。
あの医者も言っていたし、当たってると思う。
人間にとってこの現象は嫌だろうが、俺には救いでもある。
時間と安全な場所。そして死体さえあれば、俺が頭部だけになったとしても再生可能。それは一回だけだが、すでに確認済みだ。
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