小説.6

気付いた時には俺は何かを口に入れていた。

また死体を喰べていたのだ。


真っ暗闇。だが、ゾンビ達は光っている。発光している。真っ暗なのに俺には暗視コープを付けたかのようにイスや死体や景色が見える。


白黒だが、影の濃淡、薄さ濃さで分かる。俺には暗闇の世界が灰色の世界に観える。


目をこすった。そこで俺の両手がある事に気付く。生えていた。血まみれだが、確かに俺の手だった。


足元を見る。半分以上引きちぎれている死体。俺が食ったのか?下半身しかなかった。ズボンから見える肌は白くない。人間の死体だ。


俺が人間の死体を食ったのか。

気持ち悪さで吐き気がおきるが吐けない。


ゾンビの物音に気付く。

他のゾンビは俺のそばに近寄っていない。

俺は口の中の残った異物を全て吐き出す。


気持ち悪さから離れるように、やるべき事を思い出す。外も真っ暗。夜中だ。女の子が不安になってるはずだ。


人工の噴水がある池に浸かり血まみれの体を洗う。

裸になる。血の気のない白い肌に違和感を感じる。白いマネキンに赤い絵の具を塗りたくったようだった。

服屋はある。石けんが欲しい。裸のまま、真っ暗なデパートをうろつく。陰影のままだが位置が分かる。文字までは分からないが、風呂場コーナーを見つけた。ボディーソープを開ける。力を入れ過ぎたのか袋から勢いよく石けんが溢れる。

そのまま手で身体を洗う。洗いながら噴水まで戻る。

冷たさを感じないのに気付く。

思い切り腕をつねる。分からない。強くつねる。肌が千切れ、少しだけ血が出る。が、痛みは感じない。

ゆっくりと血は止まりジワジワと肌が膨らみ傷が治ってく。


再生能力。ゾンビ達も同じなのか?

人間を食うと治るのか?


新しく気付く事ばかり。だが何も分からない。

俺の身体はどうなってる?マネキンのような身体。そもそも俺は人間なのか?


押さえつけていた思考と感情が一気に溢れ出た。


俺は何なんだ?

声が出た。ぐぐもった呻き声ではなく、俺の声が。


人間だよな。

独り言を口に出した。


ゾンビは俺に全くかまわずウロウロしている。出口を探しているのか?

ゾンビに近付く。ゾンビは逃げるが、動作がゆっくりですぐ捕まえられる。

俺は腕を出し、ゾンビの口に当てた。


「ほら、食えるだろ?人間を食うんだろ?」


ゾンビは顔を背けた。

食べようともしない。俺から逃げようとするだけだ。


俺は人間じゃないのか。

絶対に認めたくなかったから、心は人間で身体はゾンビ。と自分を納得させた。

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