小説.5

防災ドアは鍵をかけずに、近くにあった自販機を引きずり置いた。

自販機はバイク位の重さに感じた。

俺の力が強くなってる。と確信。


時計は夕方の三時。

ゾンビは夜に活発になるのが通説。現実はどうだか分からないが用心にこした事はない。


どこも電気がついていない。

まず冷蔵庫の食べ物もダメになるだろう。


やる事はたくさんある。

食料と薬、衣類などの生活品の確保。ホテルの全ての部屋のチェック。全ての風呂に水を張る。飲み水の確保。今はまだ四月だが、暖かくなると腐るのが早くなる。


俺はどうしたい?俺はどうなる?これからどうなる?

今、無関係な疑問は頭から追い出す。


やるべき事に専念。専念しないと、挫けてしまう。女の子も自分の未来さえもどうでもよくなる。


眠くはない。疲労もない。喉も乾かずお腹も空かない。

それは救いだった。


ロボットみたいに、やる事だけに専念すればいい。


薬局屋で血が付かないように薬品をカゴに入れる。

ガラガラと車輪の音が響く。ゾンビの呻き声。燃えてる音。後は何も聞こえない。人間の悲鳴や助け声は何一つ聞こえない。

開きっぱなしの車の中に潜りラジオをつける。チャンネルを回すもやはりノイズ音しか聞こえない。


夜はきっと真っ暗になるだろう。

車のライトを次々と付けていく。バッテリーが上がるが車を動かす事は出来ない。

この灯りで人間が来るかもしれないし、夜中のゾンビの動向を知りたかった。


やるべき事、考えるべき事は山ほどある。

それに夢中になってる間は他のイヤな事を考えずに済む。


自分の事や将来はもちろんだが、両親と弟の事だ。

実家にいる。田舎の山奥だ。きっと大丈夫だろう。銃もあるはずだ。

爺さんはもう他界していたが猟師だった。父親も使えると聞いていた。

自給自足は可能だろう。

だから大丈夫だと自分に言い聞かす。

不安と心配を頭から追い出す。


デパートに行く。吹き抜けのテラス。ゾンビは居るが、やはり俺を見ると逃げるように離れていく。有難い。

突然、頭に重い物が落ちてきた。強い衝撃。

ゾンビか人間か死体か。


ヤバイ。首から下が全く動かない。意識が遠のく。ヤバイ。死ぬのか?



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