小説.4
とにかく、どこかの安全な建物へ。
ホテルなら鍵がついて安全だ。
ホテルを探す。
今のところ、この女の子以外の人間は見当たらない。
日本は終わった。いや、世界の滅亡が現実になった。この光景、景色を見たら誰もがそう思うだろう。
これは夢だ。と思いたくなるが、ここまでリアルだと夢とは思えない。何故か笑いそうになる。
「ちょっと待って」
後ろにいた女の子が声をかけられた。
女の子はかなり息切れをしていた。
俺に疲れは全く無い。
水飲み場を探す。スーパーを見つけた。
俺は手でスーパーを指した。ゾンビがスーパーから出て行く。
女の子はさらに俺に近寄り一緒にスーパーへ入った。
電気回線が壊れてるらしく店内は薄暗く静かだった。いたる所にゾンビがうずくまって何かを貪っていた。何か…きっと人間だろう。
スーパーの車輪付きカゴを取り出し、次々と食料を放り込む。
女の子はジュースを飲み、お菓子を口に放り込んでる。
両手がないのはすこぶる不便。
切れた断面が血みどろで生々しい。
白い骨も、黄色い脂肪も。
俺はカゴをひっくり返し、放り込んだ食べ物を床にぶちまげた。
女の子は驚いた。俺は床に書いた。
[おれの血。病気。怖い]
それから缶詰を指差しカートを指差す。
女の子はうなづいた。
俺は書いた。
[お菓子ばかりダメ]
女の子は笑ったように見えた。
俺はカロリーメイトを指差す。缶詰を指差す。レトルト食品。カップ麺。女の子は黙ってカゴに入れていく。
次行く場所は決まってた。薬屋だ。
スーパーの奥の方にゾンビが十体位、固まっていた。向こう側は従業員室。
多分、人間が居るのだろう。もしくは死体が。
女の子は気付いていない。
助けるか凄く悩んだ。
まずはこの子が最優先。
俺は何をしたい?
やっと、落ち着いた。というか、緊張の糸が切れたというか、少しなりにも余裕が出てきたのか、目の前以外の事を考えられるようになった。
真っ先に思い浮かんだのは、この両手をなんとかしたい。という事だった。
それも後回し。まずはこの子の安全が優先。
助けには後で来ようと思った。多分行かないな。とも思ってた。
ビジネスホテル。
たどり着くまでに考えていた、ルームキーを全て持ってく事を実行した。
カウンターにある鍵という鍵を全て袋に入れてもらう。
エレベーターは動かない。持てるだけの荷物を女の子に持たし、階段を登る。
階段の防災ドアを閉め鍵をかけた。
とりあえず二階の真ん中の部屋に入る。
中には人がいない。
俺は書こうと思ったが、ボールペンを持てない。部屋の中に血は付けたくない。
再び出て廊下のガラスに書いた。
[開ける合図]
それから、三三七拍子でドアをノックした。
女の子はうなづいた。
再びガラスに文字を書く。
薬局屋。待ってて。
それから窓ガラスを服で拭いて書いた文字を分からなくした。
階段の防災ドアを開けてもらう。
車両付き買い物カゴをどかした。ひょいと持ち上がった事にビックリし、そこでやっと気付いた。
あのコンクリも、コンクリが軽いのでなくて俺の力が強くなっていたのだと。
いつの間にかへこんだ腕の箇所が元通りになっていた。
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