小説.3
顔の傷口は治ったように見えるが、血の汚れと痛みが分からないのでなんとも言えない。
周りを見渡す。人間の声は車中の女の子の声しか聞こえない。
他の生きてる人間は見当たらない。
ゾンビはウロウロしているが、俺を襲ってこようとはしない。むしろ避けてるようにみえる。だが、女の子の車の方には近寄っている。
俺は車から少し離れる。離れていたゾンビは車の方に近づく。俺が車に近づく。車に居たゾンビは離れてく。
女の子は泣いている。
俺はただ立ってる事しか出来ない。
どうするか?
ゾンビ達が向こうに移動し始めた。すぐに助けを求める男の声。
助けて。誰かいないか?
と聞こえた。
俺の声は出ない。出てもどうせ伝わらない。
ぶつかりあった車の向こう側。よく見えない。
フロントガラスに血で
[もどる。たすける]
と書いた。
声の所に向かう。スーツ姿のおじさん。怪我はしてなさそうだった。
先に行ったゾンビ達の方が早い。
俺は間に合うように走った。
だが、来るな。の男の声。
そうだった。俺の姿形は周りのゾンビと同じ白い肌に血まみれ。
おじさんの手には鉄の棒を持っていた。
近づいて来るゾンビの頭を片っ端から叩いている。だがゾンビの数は多い。
どうしたら?
悩んでいるうちに男は背後から来たゾンビに捕まり噛まれ、痛がる声と共にゾンビの集団に埋もれていった。
とにかく伝えるには文字しかない。
車に戻る。女の子は顔を泣いている。
ガラスの文字には気付いていない。
どうするか悩み、ガラスを三三七拍子でノックしてみた。
女の子は顔をあげてまた叫ぶ。
手振り身振りで書いたガラスを見るようジェスチャーをする。
やっと見てくれた。
サイドガラスに再び書いた。
[オレは人。たすける]
俺は書いた。女の子は首を振る。
どうしたらいい?どうすれば?
後部座席のガラスにまた書く。
[声でない。君ひとり おそわれる]
そう書いて、俺はゾンビの方に近寄った。近寄る俺に気付いたゾンビは逃げるように離れてく。
再び車に戻り[ホントだろ]というように、ゾンビと自分を交互に指差し、首を何度も縦に振った。
女の子は「助けて」と俺に言った。
やっと信じてくれた事に俺はため息を吐いた。
でもどうやって助けたらいいのか。
「開かないの」
女の子は言った。両手が無い俺は困った。ドアノブが掴めない。
手頃な木の板を拾い、片方を取手に挟み、腕を土台にしドアの隙間に入れ、テコの要領で開けようとした。
動かない。
体重をかけ力を入れる。土台にした腕から骨の折れた音が聞こえ、木も折れた。腕の一部が木の形にへこんだ。車のドアは開かない。
[窓ガラス割れる?]
俺は書いた。女の子は車の中を探したが「ない」と答えた。
重そうなコンクリの破片。
持ち上がるかな。と思いつつ、手のない両手でうまく持ち上げようとした。
発泡スチロールかと思えたほど軽かった。
この軽さじゃ、割れないだろうと思いつつも、ダメ元で窓ガラスに放る。
ガラスは割れた。車のガラスは合わせガラスといって、粉々に割れる。割れたガラスによる怪我よりも投げたコンクリが女の子にぶつかったのでは。と心配した。
あんなに軽かったのに。重力が狂ったのかな?と見当違いな事を思った位だ。
女の子は出ようとしなかった。
俺は両手を合わせて、ごめん。ごめん。と頭を何回も下げた。
そのジェスチャーも通じたのか、女の子は恐る恐る這い出して来た。
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